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UPDATE

家畜への抗生物質投与で耐性菌増える 

ダニエル・ニーレンバーグ(Danielle Nierenbarg)


  懸念を抱く科学者の会(Union of Concerned Scientists:UCS)が発表した2001年1月の報告によれば、健康な動物に大量の抗生物質を与えていることで、医薬品のリストに徐々に影響が及び、人間の健康が脅かされつつあるという。 

 抗生物質は、工場方式で飼育されているブタや牛、ニワトリの餌や水に混ぜるか、注射の形で投与されている。目的は、不衛生な飼育方法や過密状態が原因で発生する病気の予防と、成長の促進である。UCSによれば、ペニシリン、テトラサイクロン、エリスロマイシンなど、人間の医薬品として知られているこれらの薬が、“病気が無い”状況で使われるケースがほとんどだという。 

 健康問題の専門家は、抗菌せっけん、抗菌ローションといった消耗品や医薬品に、抗生物質が多量に、あるいは誤って使われているのではないかと懸念している(2000年9/10月号『家庭でも農場でも細菌がより強力になっている』参照)。2001年1月のアメリカ医師会報に掲載された研究では、臨床用の開発では、新しい抗生物質はあってもごくわずかだという。

 一般に、特定の疾患を治療するための抗生物質は医者の処方箋が必要だが、同じ薬でも農業に利用する場合は、処方を受ける前に動物が病気になる必要すらない。それどころか、窮屈な家畜小屋のオーナーは、成長促進と病気予防を目的に、通常数千頭にのぼる家畜の群れ全体に投与できる。塀で囲まれた換気の悪い場所に、多すぎる動物を押し込んだ結果発生する病気の予防である。 

 UCSは、政府や産業界からデータを集め、アメリカの家畜に治療目的以外で利用された抗生物質の総量が、1985年から2000年の間に50%増加したと推計している。報告書によれば、鶏肉の生産者が利用する抗生物質の量は、1980年代以降1羽当たり307%増えている。また15年前に比べ、肉牛で28%、ブタで15%、抗生物質の投与量が増えている。テトラサイクロンやペニシリンといった抗生物質が人間の医薬品として重要であるがゆえに、欧州連合(EU)は98年以降、成長促進を目的とした抗生物質の動物への使用を禁止した。

 人間の体内にいるような動物バクテリアは、抗生物質に対する耐性を徐々に発達させていける。抗生物質に繰り返しさらされる状況を生き抜いたごく一部のバクテリアは、再生し、数世代にわたってその薬剤への耐性を発達させるので、最終的により強力になり、根絶がきわめて困難になる。その結果、牛肉、牛乳、鶏肉、鶏卵の生産者は、サルモネラ菌などの発生を抑えるため、抗生物質の使用量を増やさざるを得なくなっており、乱用と耐性というサイクルが作られている。近年、イリノイ大学の研究者らは、すでに耐性を持ったバクテリアを含んだ家畜製品を人々が消費すると、人間の消化器官が耐性菌の繁殖場になり、他の種へと問題が広がることを発見している。たとえば、1998年には、ネブラスカ州の12歳の少年が複数の薬に耐性を持ったサルモネラ菌株に感染したが、これはまさしく、少年の家の農場で飼っていた家畜から分離したものと同じだった。

 UCSや抗生物質の慎重な使用を進める会をはじめとするいくつかの団体は、アメリカ食品医薬品局(FDA)に対し、農業用の抗生物質を販売している製薬会社が行う記録管理を改善させるよう要請した。これに関して、FDAは、fluoroquinolone(別の種類の抗生物質)の家禽への使用禁止を提案し、家畜に投与されている特定の抗生物質を、耐性が発生する前に抑えるよう設定された限界値に基づいて制限したいと考えている。抗生物質に汚染された家畜製品を避ける当面の唯一の道は、薬の使用を禁止している有機生産者から食品を購入することだろう。