途上国の債務
途上国の累積債務は1970年代の後半から急激に拡大し、80年代後半にいったん拡大が錬化した。しかし、90年代に入ってグローバリゼーションの進展と国際金融市場の自由化を受けて再び加速し、1998年にピークを迎え、その後は若干の減少傾向にある(図1)。 2002年では途上国全体で2兆3842億ドルの債務となっており、その約60%は民間からの資金となっている。しかし、1990年代後半から、途上国においては民間からの純資金移動は徐々に低下しており、1998年以降は、ゼロかマイナスの資金移動(返済の方が借入より多い)の状況になっている1)。 地域的には、図2に示すように東アジア太平洋、東ヨーロッパ・中央アジア、ラテンアメリカ・カリビアンといった地域の国に多くの負債がある。途上国債務の約78%は中所得国の負債であり、その多くは民間資金となっている。たとえばブラジル、ロシア、メキシコ、アルゼンチン、中国の上位5か国で債務全体の36%を占めており、そのうちの74%は民間からの資金となっている2)。逆にサブサハラ・アフリカ*では民間資金の割合は低く(34%)、大半は中・長期の公的資金となっている。累積債務の拡大に併せて、1980年代に入ると債務不履行に陥る国が増え、1989年には過去最高の52か国を記録している。その後減少に転じ、96年および98年には25か国となったものの、再び増加傾向を示している。 民間資金の途上国への流入は、1990年代に急激に拡大し、1997年にピークの2960億ドルを記録したものの、債務不履行やアジア通貨危機に代表されるリスクの増大から、2002年には1616億ドルへと大幅に低下している。こうした傾向とは逆に、海外からの直接投資(FDI)や労働者の海外からの送金が途上国への資金流入の大きな割合を占めるようになり、2002年では、FDIは1430億ドル、送金は880億ドルとなっている。 一方、貧困国では、債務の解消が進まないため、開発(インフラの整備、教育投資、社会サービスなど)に回す資金が確保できず、貧困問題や人口増加に対処するために必要とされる経済成長も、停滞するという悪循環に陥っている。経済規模に対する債務の規模は、途上国平均でGDPの50%、輸出の80%に達し、とくにアフリカでその比率が高くなっており、1998年時点で、債務総額がGDPを上回っている国が20か国存在する3)。 そのため、ジュビリー2000などのNGOの要請に応える形で、1996年に世界銀行(WB)や国際通貨基金(IMF) HIPC要件に該当しないと判断された4か国およびラオス(プロセス中断)を除いた37か国への支援額は公約ベースで514億ドル(2002年のドル価)であり、これはHIPC諸国の債務全体(2001年のドル価で953億ドル)4)の約54%に相当する。2004年2月時点での実施状況は、HIPCの対象国(32か国はサハラ砂漠以南のアフリカ)のうち、10か国が総額122億ドルの全体パッケージの救済を受けている。このほか17か国が第一段階をクリアーし、中間融資を受けているものの、6か国については構造改革や公共資産の運営の面で問題を抱えている5)。 債務の救済を受けている27か国(実施段階の10か国および中間段階の17か国)については、貧困対策に向けられた資金が1999年の43億ドルから、2003年には70億ドルに増加している6)。また、アリカのHIPCで債務削減を受けた10か国は、教育予算が9.3億ドルから、13.1億ドルへと増大し、同様に保健・医療予算も4.7億ドルから8.0億ドルへと大幅な増大を達成している。 上記のように一部の国で改善が見られるものの、債務の支払いは途上国経済への大きな負担となっており、債務削減は遅々として進んでいない。たとえば、世界銀行の公約した124億ドル余りの債務削減に対して、実際に支出が行われた額は28億ドルであり、公約額の22.4%にとどまっている。また、HIPC対象国のうち、第一段階をクリアーしていない国も11か国残っている(そのうちのラオスはプロセス中断)。 2000年9月の国連総会で合意されたミレニアム開発目標(MDG)を達成するためには、HIPCには約465億ドルの資金が必要であるが、途上国にとって債務の返済を継続しながら独自でMDG達成のための資金や経済成長を確保することは困難である7)。このため債務削減に加えて、無償援助を中心とする政府開発援助(ODA)が大きな役割を果たすと考えられるが、ODA自体も1992年の710億ドルから、2002年には583億ドルへと減少している。HIPCがアフリカに集中しており、アフリカの返済能力(経済成長と輸出)が低いことを考えると、債務の包括的な削減も含めた、新たなHIPCに対する救済プログラムの策定が必要になると考える。
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