国連のアナン事務総長がヨハネスブルグ・サミットで取り上げられる5大テーマのひとつにエネルギーを選択したことは、エネルギー問題のこの10年の進歩を表している。1992年のリオ・サミットで採択されたアジェンダ21の中で、エネルギー、特に再生可能なエネルギーの可能性は手短に言及されたに過ぎなかった。リオで採択された気候変動枠組み条約はエネルギーに間接的に言及してはいるが、太陽、風力、生物などの再生可能なエネルギー資源はほとんど注目されることがなかった。
それから10年が経過して、事態は大きく変わった。1992年以降、再生可能エネルギーの市場は急速に拡大してきた。例えば風力発電容量は1992年初めの217万キロワットから2002年初めには2480万キロワットへと、10年間で10倍以上に伸びた。太陽電池の年間生産量は1991年の5万5000キロワットから2001年の
39万1000キロワットへと7倍に成長した。
過去5年間の平均を見ると、再生可能エネルギーの生産の成長率は年間30パーセントに達し、世界がポスト石油の世紀を迎えたことを示す指標となっている。石油供給量の縮小、大気の二酸化炭素吸収力の限界、途上国の数億という人々の間で急速に高まるエネルギー需要などはすべて、ポスト石油時代が20世紀の化石燃料に代わる新エネルギー資源を必要とすることを示すものだ。
再生可能エネルギーの過去10年の驚異的成長は、わずか数カ国のダイナミックな市場によってもたらされた。風力を例にとると、世界の風力発電容量の4分の3がドイツ、アメリカ、スペイン、デンマーク、インドで占められている。デンマークやドイツ、スペインでは地域によっては風力発電が全体の電力供給量の20パーセントを超えている。これは、世界のエネルギー供給量に占める水力発電または原子力発電のシェアをしのぐ数字だ。
これら5カ国と、近年太陽電池市場の中心となっている日本が見せた再生可能エネルギーに関する成功は、この10年の奨励政策に帰するところが大きい。こうした国々における成功を、いかに世界に広めていくかがヨハネスブルグの課題となる。したがって、ヨハネスブルグ行動計画は、持続可能な世界の電力供給に関する再生可能エネルギーの重要性を明確に認めること、各国政府と国際社会がこのヴィジョンを実現させるための取り組みに対する実際的な提案を行うことが不可欠だ。
今日の再生可能エネルギー資源の状況は、100年前の石油の状況、すなわち当時のエネルギー全供給量に占める石油の割合と将来の成長見通しとほぼ一致している。1902年、石油が全エネルギー資源に占める割合はわずか2パーセントだったが、ニッチ市場で急速に伸びつつあった。今日、風力と太陽エネルギーの3年ごとに倍増する成長の勢いを受けて、メーカーは生産規模を拡大することでコストダウンを図ることができる。再生可能なエネルギーの今日の成長は、携帯電話やインターネットなど比較的新しい産業の発展ぶりに匹敵する。一方、石油市場の成長率は現在では1.5パーセントに満たない。
簡単にいえば、石油確保を目的とする中東への依存の脅威や継続的な大気汚染によって生態系が直面している危機が示すように、現在の我々のエネルギーシステムは世界の安全保障の弱体化につながる。予期せぬ転換を強いるような大規模な危機が起こる前に、安全保障の優先事項として化石燃料に対する依存度を低減しなければならない。
再生可能エネルギーは途上国では特に重要な役割を担っている。「エネルギーアパルトヘイト」問題に対処するためのツールとなる再生可能エネルギーに正面から取り組むために、
ヨハネスブルグほど適した場はない。地球上の40億人以上が持続不可能なエネルギー資源に依存し、残りの20億人が電力や石油へのアクセスを持たない現状を考えると、エネルギー資源を持つ国、持たない国のいずれもが持続困難な状況にあり、かつ、再生可能なエネルギーが急速に普及することで多大な利益を得ることがわかる。特に途上国では、エネルギーの供給は教育、医療、産業開発に欠かせない要素だ。
再生可能エネルギーの可能性の認識が政府と企業の間で広まりつつある。これは大手石油・電力企業やベンチャーキャピタルの再生可能エネルギーへの、資本の流れが増大していることでも明らかだ。また、再生可能エネルギーに関する法律の施行が国や州レベルで盛んになりつつある。最近、ブラジルや中国、インドは市場拡大をにらんで再生可能エネルギー関連法を整備・強化した。アメリカでは約半数の連邦議会議員が再生可能エネルギー委員会のメンバーだ。
先進8カ国首脳が設置した政府と産業界のメンバーで構成される再生可能エネルギータスクフォースは、2001年7月発表した報告書で次のように結論付けた。「再生可能エネルギー資源は地域、地方、全地球レベルにおける環境への影響やエネルギー保障の危機を大きく軽減でき、状況によっては消費者の経費負担を抑えることができる」このタスクフォースのリーダー、ロイヤル・ダッチ・シェルのCEOであったのマーク・ムーディー・スチュアートは各国政府に対し「再生可能エネルギーのターゲットを広めるために、不適切な補助金・補助制度を廃して再生可能エネルギーを補助することでエネルギー部門に公平な競争の場を提供する」ことを呼びかけた。
再生可能なエネルギーの利用促進については、エネルギー部門の諸規制、課税、補助金や補助制度の適用を決定し、エネルギー動向に影響を及ぼす各国政府(場合によっては州・地方政府)が負う責任が大きい。しかしながら、国際社会の支援も様々な形で可能であり、ヨハネスブルグ・サミットは持続可能なエネルギー資源の普及の重要な機会となる。
1. 目標設定
エネルギー供給量全体に占める再生可能エネルギー資源の割合を高めるため、意欲的で明確な目標を定めることは政府の行動を促す有効な手段である。ドイツは再生可能エネルギーの導入目標の成功例であり、1991年に設定された再生可能エネルギーの国家目標は市場と政策開発を刺激し、当初の目標を大きく上回る成功を導いた。より最近の例としては、欧州連合が2010年までに再生可能なエネルギー資源による発電量を倍増させるという目標を定めたことが挙げられる。
サミットの準備段階で、世界を対象にした再生可能なエネルギーの様々な目標が提案された。最も広く取り上げられた数字は2002年5月にサンパウロで開催されたラテン・アメリカとカリブ海諸国の環境担当閣僚会議で採択された「ブラジル・エネルギー・イニシアチブ」に含まれる目標だ。このイニシアチブは2010年までに世界のエネルギーの10パーセントを再生可能なエネルギー資源から得るようにすることを呼びかけている。
2. 効果的な政策に関する情報提供
過去10年に再生可能なエネルギー市場の著しい成長を遂げたのはごく限られた国々であることから、そうした国々の政策を各国政府や産業界のリーダーに広く紹介してゆくことが重要である。「
標準化された契約システムで管理された電力網へのアクセスの適正価格での提供すること」と「市場発展のインセンテイヴとして最低限必要にして、費用効果のある一定限度の補助金・補助制度を提供すること」に重点が置かれなければならない。
また、効果的なエネルギー政策に関する情報センターおよび普及センターとして機能し、世界各国、特に途上国に対して政策に関する積極的な助言と人材育成に取り組む特別機関へのニーズもある。
3.再生可能エネルギーのための資金調達
国際機関などは過去半世紀にわたって化石燃料と核技術の輸出と開発に莫大な助成を行ってきた。今日でも助成予算の大半は既に市場でその地位を確立した、多くは持続不可能なエネルギー資源に費やされている。Global
Environment Facility(地球環境ファシリティ)をはじめとする融資機関は再生可能なエネルギーの助成に力を入れているが、その規模はかなり小さい。
エネルギー資金の優先順位の国際レベルでの変化が途上国における市場の成長に欠かせない。世界各国の議員で構成される機関、GLOBEは、先進国政府によるエネルギー関連輸出助成のうち再生可能なエネルギーを対象にする割合を2010年までに10パーセントに上昇させるという目標を提案した。世界銀行や各地域の開発銀行も再生可能エネルギー資源の利用促進へのコミットメントを高めるべきだ。
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