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世界の森林面積は、地球環境の健康状態を見る主要なバロメーターである。健全な森林は栄養素を循環し、気温を調節し、土壌を一定に保ち、廃棄物を処理し、生き物たちの居住環境を調え、休息の場を提供する。こうした作用は控えめに見積もっても、世界総生産の10分の1と同じ4.7兆ドル以上の価値がある。また森林は、食料、薬、そして様々な種類の木工品などの供給源でもある。
森林面積の変化 (1990年〜2000年) |
1990年森林総面積 |
2000年森林総面積 |
1990年から2000年の変化 |
百万ヘクタール |
割合(%) |
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702 |
650 |
- 7.8 |
551 |
548 |
- 0.7 |
201 |
198 |
- 1.8 |
1,030 |
1,039 |
+ 0.8 |
555 |
549 |
- 1.0 |
923 |
886 |
- 4.1 |
3,963 |
3,869 |
- 2.2 |
注:割合は切り上げ切捨てなしの測定値に基づく。 |
出典:国連食料農業機関 「世界森林白書 2001年」(2001年ローマ刊). |
全世界の森林面積はおよそ39億ヘクタールで、南極大陸とグリーンランドを除く世界の地表面積のほぼ3分の1を占める。広大ではあるが、1万1,000年前に人類が農業を開始したときの森林面積にくらべるとそのたった半分でしかない。ほとんどの森林は原状をとどめておらず、その構成や質が変わってしまっている。
世界の森林面積の変化を計測するのは困難である。森林とは何か様々な定義があり、衛星やレーダー情報が不足していて、モニター外で土地利用が変わっている場合があるからだ。国連食料農業機関(FAO)の控えめな推測によると、1990年代の10年間では全世界で9,400万ヘクタールの森林が消滅した。(データを参照)そのうち発展途上国では1億3,000万ヘクタールの減少だが、工業国では放棄された農地が森林に戻ったので3,600万ヘクタール増加している。同じ期間の自然林の減少は、伐採と自然林から植林への転換をあわせて、年間1,600万ヘクタールで、このうち94%が熱帯地方で起こっている。
1990年代最大の打撃を負ったのはブラジルで、2,300万ヘクタールもの森林が消滅した。南米全体では3,700万ヘクタールの減少である。アフリカでは、5,200万ヘクタールが破壊され、そのうち半分はスーダン、ザンビア、コンゴ民主共和国である。米国では400万ヘクタール増加したがメキシコでは600万以上消失しており、政府のレポートによるとそれ以上の可能性もあるようだ。北米・中米全体の合計は600万ヘクタールである。
中国では大掛かりな森林再生キャンペーンが行われ、1990年代年には平均1,800万ヘクタール森林面積が増えた。これは、1990年代後半に木材伐採が禁止され、植林や木工品の輸入へ重点が置かれるようになったお陰によるところが大きい。インドネシアでは伐木により1,300万ヘクタールの森林が1990年代の10年間で消滅し、今でも年平均200万ヘクタールの森林が消滅しつつある。同じ10年でアジア全体の森林面積は400万ヘクタール減少した。
FAOによれば、世界全体でみると森林が減少する速さは以前より遅くなったが、熱帯地方では加速度的に進んでおり年1,300万ヘクタールを超える勢いで消滅している。世界中多くの地域で伐木量が増え、現存する森林のほぼ半分が危機にさらされている。現在のペースで森林破壊が進めば、世界中の健全な森林の40%が10年から20年以内、あるいはもっと早くに消滅すると世界資源研究所(WRI)は予測している。
木材を消費するから森林破壊がおきるのである。1960年以来、全世界の木工製品生産量は50%増加し15億立方メートルに上り、このうち四分の五が一次林と二次林から伐採された木材による。またほぼ同じ量の18億立方メートルの木材が、途上国で毎年燃料として使われている。
世界中で伐木が禁止されているのは、たった2億9,000万ヘクタールの森林地だけだが、そこすら不法な伐採によって脅かされている。世界で生態系が非常に多様な200の地域のうち65%が、不法な伐木の脅威にさらされている。そのせいで公共の森林は荒廃し、森林整備への地元民のやる気はそがれ、政府歳入の損失は年間150億ドルにも上っている。
植林地は現在1億8,700万ヘクタールに及び、これは全森林の5%にも満たないが、世界の木工製品20%の原料を供給している。自然林は使い尽くされてしまったか保護されているので、今後は植林地からの木材で需要が満たされる割合が増えそうだ。
計画的で管理の行き届いた植林を行えば材木の需要を効率的に満たすことができる。しかし残念ながら、老成林や非常に多様な生態系を持つ自然林を犠牲にして植林が進められている例が世界中で多々ある。新しい木を植林することを条件に政府が伐採を企業に許可する場合もあるが、皆伐した裸地を残して次々と伐採場所をかえていく企業もある。インドネシアでは、900万ヘクタールが工業植林地として指定されているが、そのうち200万ヘクタールでしか植林は行われていない。
元来の自然環境機能をなくした森林では、植物が育たなくなったせいで土壌が悪化し、滋養が巡回しなくなり、表土流出などが起きやすくなる。こうした土地はあっという間に森としての役割を果たさなくなり、そこにいくら植林しても単一栽培では、様々な年齢の多様な種がそれぞれ独自の生物学的役割を果たしている原生林には程遠く、生態系の過程が変わるのは必至である。
国連環境計画(UNEP)、航空宇宙局(NASA)、米国地質調査所(USGS)による衛星を利用した世界の森林地調査によると、ほぼ健全な森林(樹冠閉鎖率40%以上)の80%は15カ国に集中している。88%の主要な閉鎖森林地は人があまり住んでおらず、保護地域として有望視されている。全面的な伐採の一時禁止が不可能ならば、これら15カ国で保護地域指定が実現されれば、森林保護へまずまずの出発点となるだろう。
世界で自然林の消失を遅らせるには、低所得国において大切な材木が燃料として使われないよう、代替物を見つけ出すことが不可欠である。技術革新のおかげで、再生木材や使用済みの紙を再利用して木製品の需要を満たすことができるようになった。原木を使った製品の消費を減らすのも、世界中の樹木を救う鍵である。
木製品を使う際には国産品であれ輸入品であれ、森林管理協議会(FSC)などが定めているような環境面と社会面ともに厳しい基準を満たしてきちんと管理されている森林からの木材が使われているかどうか、政府がチェックしたらどうだろうか。世界中でFSCの認可団体が45カ国の2,400万ヘクタールの森林を認定している。保証付きの材木への需要が高まり、認可を受けていないと販売が難しくなれば、今後さらにその数は増えるはずである。
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