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2002-13
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Eco-Economy-Update 2002-13
大気汚染による
死亡者数は交通事故の3倍
バーニー・ロバーツ
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世界保健機関の報告書によると、大気汚染による死亡者数は年間300万人である。これは交通事故死(年間100万人)の3倍にあたる。医学誌『ランセット』が2000年に発表した調査結果は、フランス、オーストリア、スイスの大気汚染による死亡者数は3か国合計で年間4万人を超えるとしている。このうち、クルマの排気ガスが原因で死亡した人の割合は半数近くにのぼる。
アメリカの交通事故死は年間4万人強、大気汚染による死亡者は7万人を数える。7万人というのは乳ガンと前立腺ガンの合計死亡者数に匹敵する。大気汚染は、先進国および発展途上国の都市部に住む数十億人の健康を脅している。
各国とも交通事故の防止については徹底しており、スピード違反は罰金、飲酒運転は逮捕、時には免許取消も辞さない一方で、クルマに乗るだけで人を死に至らしめる排ガス問題にはあまり注意を払っていない。大気汚染を原因とする心臓病・呼吸器疾患による死亡は、赤い緊急灯が点滅してサイレンが鳴る交通事故死のような派手なものではないかもしれないが、人が死ぬという現実に変わりはない。
大気汚染物質には一酸化炭素、オゾン、二酸化硫黄、窒素酸化物、粒子状物質などがある。主に化石燃料の燃焼によって生じるこれらの汚染物質は、その大部分が石炭を使用する火力発電所やガソリンで走るクルマから排出される。窒素酸化物は地上オゾン(対流圏オゾン)生成の原因となることがある。粒子状物質はディーゼルエンジンをはじめ、さまざまな排出源がある。広い地域に立ちこめるスモッグ(「スモーク=煙」と「フォッグ=霧」に由来する造語)の正体は、主にオゾンと粒子状物質だ。
通常、都市の大気にはさまざまな汚染物質が混在しているが、そのひとつひとつが複合的に作用するため、汚染物質の種類が多いほど大気汚染に対する抵抗力は減退すると考えられる。一酸化炭素に暴露すると、一酸化炭素とヘモグロビンが結合することで赤血球が運搬する酸素量が減少し、その結果反射神経が鈍り、眠気をもよおす。窒素酸化物は、気道をアレルゲン(アレルギー誘発物質)に対して敏感にするとともに、ぜんそくの悪化や肺機能の低下をもたらす。オゾンは肺の炎症を引き起こし、肺機能と運動能力を低下させる。
粒子状物質のうち粒径10ミクロン(μm) 以下の浮遊粒子状物質は、肺胞に沈着する。そのため呼吸器系の疾病で入院する人が増加し、呼吸器疾患や心循環器疾患の死亡率が上昇する。浮遊粒子状物質の大気中濃度が高いほど死亡率も上がる。
都市部の通常濃度で粒子状物質やオゾンを吸い込むと動脈が収縮して血流が低下し、心臓への酸素供給が妨げられる。結果として大気汚染は心臓病やぜんそくを悪化させる。
汚染物質のなかには基準値未満の濃度なら健康に影響を与えないものもあるが、オゾンや粒子状物質はきわめて低い濃度でも健康被害をもたらすので、実質的な「安全レベル」は存在しない。2001年にサイエンス誌が発表した研究報告書は、現在の濃度でオゾンや粒子状物質に暴露した場合、先進国でも発展途上国でも「死亡率、入院、通院、ぜんそくと気管支炎の合併症、欠勤、健康被害による行動制限、さまざまな肺障害が増加する」としている。
このような事態は健康管理システムに影響を及ぼすと同時に経済的損失にもつながる。大気汚染による疾病で治療費、労働者の欠勤にかかるコスト、育児関連の支出が増大するのだ。人口1190万人【※参照】のカナダ・オンタリオ州では、大気汚染に伴う通院、緊急救命室への患者の搬入、労働者の欠勤について少なくとも年間10億ドル(約1200億円)のコストがかかっている。世界銀行によるとジャカルタ、バンコク、マニラでは大気中の鉛と粉じんへの暴露がもたらす社会的コストが1990年代のはじめに平均所得の1割に達した。中国は都市部の大気汚染が世界でもっとも深刻な国のひとつで、大気汚染を原因とする都市生活者の疾病・死亡関連コストは国内総生産の5%と推定される。
大気汚染にかかる経済的コストを削減する方法として、法人税等の減税と化石燃料関連税の増税が考えられる。これにより燃料使用の効率化とクリーンエネルギーへの転換が促進され、汚染対策の体制が確立する。健康保険への資金投入を拡大して大気汚染関連の疾病治療を支援するのも選択肢のひとつだ。汚染源となる燃料の価格引き上げも健康被害や若年死の防止につながる。
深刻な大気汚染で知られる国々は、排ガス防止策として交通規制に取り組んでいる。メキシコシティとサンパウロでは、ナンバーの末尾の数字によって日替わりで市街地への乗り入れ制限を行っている。コロンビアの首都ボゴタも一連の排ガス対策のおかげで住みやすくなった。1995年からラッシュ時の交通量は4割減となりガソリン税も引き上げられた。毎週日曜日は約120kmの幹線道路が7時間車両通行止めになり、ウォーキングやサイクリング、ジョギングが楽しめる。
都市の大気汚染対策はそう難しいことではない。個人の取り組みとしては燃費の良い車に切り替える、クルマのかわりに自転車や公共の交通機関を利用する、または歩くという選択肢があるし、都市計画担当部門や地方政府レベルでは、交通予算をLRT(高機能路面電車)、鉄道、高速バスなどの公共機関に振り向けるという方法が考えられる。
公共交通機関の整備体制を強化するには都市計画区画法などの規制手段が有効となる。また、化石燃料の補助制度を撤廃してクリーンエネルギーに対する補助金や税制上の優遇措置を打ち出せば、石炭・天然ガスによる火力発電から風力発電、太陽電池への転換が可能になる。
消費者がクルマを買う時に注目するのは価格、付加価値、安全性、次いで燃費というのがふつうだが、大気汚染による死亡者数が世界各地で交通事故死を大きく上回っているいま、安全性の問題を大気汚染防止という視点でとらえ直す必要がある。交通事故を起こすのは一部の人だが、大気汚染に加担するのはクルマに乗るすべての人なのだから。
※
http://www.canadanet.or.jp/about/on.shtml参照
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