海洋漁業についての新たな調査が行われ、世界の大型捕食魚の90%が20世紀後半の50年間で姿を消したとの結論が出された。そのなかにはマグロ、メカジキ、タラ、オヒョウ、カレイも含まれている。カナダ、ダルハウジー大学のランサム・マイヤーズとボリス・ワームは10年に及ぶ調査
から、全世界に高性能の漁船が増えたこととシーフードの需要が伸びたことが相まって、大型魚が減少したとみている。
かつては無尽蔵と考えられていた世界の漁場が、今では危機的状況にある。国連食糧農業機関(FAO)の推定では、世界の海洋漁場の4分の3で持続可能な漁獲量以上の魚が捕られている。漁船の大型化および高馬力化(甲板に加工設備を備えたものもある)、漁具の改良、航海技術や魚群探知技術の向上などによって、海からより多くの魚が捕れるようになった。だがこの技術革新は、当然のことと考えられてきた海洋資源の回復力を損なうであろう。
データによると、大型漁船団がある漁場を操業対象にすると、数年のうちに魚の個体数を激減させる能力がある。大型魚のおよそ80%は15年以内にいなくなる。小型の魚は最初の内は繁殖するかもしれないが、じきにその個体数も激減することが多い。餌不足、過密、病気のせいか、あるいは「食物網の下位のものを捕獲する」人々の漁業対象になるからである。食物網の頂点に立つ捕食魚の体長の平均は、かつての5分の1から半分ほどしかない。その理由の一つには、繁殖し続けられるのは漁網から逃げ出せるほど小さい魚だということがある。もう一つの問題は、成長の遅い魚はしばしば、繁殖能力をもつ以前に捕獲されてしまうことである。
漁具はしばしば、無差別に魚を捕らえる。トロール漁船は巨大な網を引っ張るから、海底は根こそぎにされ、海洋生息地が破壊される。さらに目標以外の魚種も捕らえる。世界中で漁獲量のほぼ4分の1が、海に廃棄されて死んでいる。魚が売り物にならなかったり、漁師が魚獲割当量以上を捕ってしまうからである。クジラ、イルカ、ネズミイルカも、このような巻き添えになっている。メキシコ湾の小エビ漁などいくつかの漁場では、この「混獲」の重量が、利益を生じる漁獲量の10倍になることがある。
数十年間、順調に伸びてきた世界の漁獲量は、1986年以降8500万トンから9500万トンの間で停滞している(グラフはwww.earth-policy.orgを参照)。FAOのデータによれば、2001年に世界の水揚量は約9200万トンだった。ブリティッシュ・コロンビア大学のレグ・ワトソンとダニエル・ポーリーは、世界最大の漁業国である中国が漁獲量を過大に報告していたことと、気候の関係でペルーのカタクチイワシの個体数に大きなばらつきが出ることとによって、1988年以降、世界の漁獲量が年換算で約66万トンずつ減少している事実が見のがされていたものと分析している。
1950年から1988年の間に、世界の漁獲量は1900万トンから8900万トンになった。5倍に伸びたため、同時期の世界の牛肉生産量の増大をはるかに上回った(1900万トンから5400万トンになった)。1人当たりの年間漁獲量は、1950年に8キログラムだったが、ピークの1988年には17キログラムだった。過去のほぼ半世紀を通じて、動物タンパクの需要拡大を満たす手段の一つとして、私たちは漁獲量の順調な伸びをあてにすることができた。だがその時代は終わった。
主要なタンパク源を魚に頼っている世界の10億人にとって、また漁業や漁業関連産業に従事する2億人にとって、将来の展望が開けるかどうかは、天然魚の漁業資源および養殖の管理にかかっている。生態学者は魚の資源量を銀行口座になぞらえる。ある程度の預金残高があれば、私たちは利息で食べていける。だが元金に手をつけることが続けば、口座はいずれ空になってしまう。
ニューファンドランド沖のタラ漁場で漁獲高が激減したことは、そのよい例である。この漁場は数世紀にわたって、世界で有数の漁獲量を誇っていた。ピーク時の1968年には、漁獲量は80万トン、漁業従事者は4万人だった。その後、乱獲と生息環境の悪化がたたって資源量が急激に落ち込み、92年には保護の目的でこの漁場は閉鎖された。だが、遅すぎたのかもしれない。10年が過ぎても、資源量は回復していない。
この漁場の衰退は地域規模のものだが、そこに含まれる問題はずっと大きい。北大西洋全体でみると、20世紀後半の50年間で操業は3倍になったが、タラ、マグロ、カレイ、メルルーサなど商品価値の高い魚種の多くで漁獲量は半減している。北海からスコットランド西側にかけてのタラ資源は消滅寸前である。2001年にはマルコム・マクガーヴィンが『今やらなければ間に合わない:カナダのタラ激減の代価とイギリスにおける気がかりな類似点』と題した報告書のなかで、ヨーロッパはニューファンドランドの漁民と同じ運命をたどらないようにしなければならないと力説した。
こうした漁業資源の衰退に歯止めをかけて、回復をめざすことも可能である。漁師に漁業資源の所有権を与えれば、漁場の生産力が高いほど自分たちの分け前も多くなるということを、理解する一助になるだろう。たとえばアイスランドとニュージーランドの漁師は1980年代後半から、譲渡可能な漁獲割当制度を導入しており、漁業権を売ることが認められている。その結果、漁獲量は少なくても収益性が上がり、魚の個体数も回復している。よく知られた「共有地の悲劇〔注:1968年にガーレット・ハーディンが発表した論文。共有地に対して各経済主体が自由にアクセスすることができる場合、その共有地の資源は社会的に最適な水準よりも過剰に利用され、極端な場合には枯渇してしまう、との内容〕」は回避されるのである。
海洋生態系は複雑なので一部の科学者は、種ごとにではなく生態系全体を管理すべきだと強く主張している。さらに様々な調査から、繁殖に重要な海域に設定された海洋保護区は乱獲された海域を修復するのに役立つことが分かっている。保護区は魚が孵化して成長するのに安全な場所となるので、保護区内とその周囲の魚の個体数や平均体長は増加する。たとえば1995年にセントルシア沖に海洋保護区のネットワークを構築したところ、近隣の小規模漁業の漁獲高は90%も増加した。サンゴ礁、澡場、海岸湿地などの稚魚の生息地を保護することは、海洋魚を今後の世代に残すために欠かすことができない。
消費者は魚を食べる量を減らしたり、資源が豊富で管理が行き届いた漁場からの魚介類を食べることによって、漁場の修復・育成を促進できる。米国オーデュボン協会のリビング・オーシャン・プログラムが出している「シーフード・ラヴァーズ・ガイド」は価値ある参考文献である。たとえばチリのシーバスは資源が枯渇する寸前で密漁も多いので、避けるべき魚のリストに載っている。このリストはまた天然のアラスカサーモンと養殖ものとを区別している。前者は健全な漁場のもの、後者は天然魚を原料とする餌を与えられているので、海洋資源への負荷を軽減していないものである。消費者が購買にあたって賢い判断ができるような、適切なラベルが必要である。独立した国際認証機関である海洋管理協議会はこれまでに7つの漁場を、持続可能な管理がされていて環境への影響は最小限であると認証した。
いまや世界の漁船の漁獲能力を合わせると、持続可能な漁獲高の2倍になる。ダルハウジー大学のマイヤーズとワームは、これ以上の漁業資源の衰退を防ぐためには、全世界の漁獲量を半分に削減する必要があると考えている。混獲を減らし、保護区を設定し、短期の経済的利益のためではなく長期の持続可能性のために海洋生態系を管理するといったことは、世界の漁業資源を保持するのに役立つ。これに加えて少なくとも150億ドルにのぼる世界の漁業助成金を、漁師の再教育など、これまでとは違ったものに充てれば、その見返りは大きいだろう。世界の魚資源保護の緊急性はこの上なく高い。いったん漁場が衰退してしまうと、回復する保証はないのである。
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