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1984年創刊、世界で読まれている地球環境問題のロングセラー本『地球白書』、最新版発売!

Eco-Economy-Update2003-6

前進する砂漠との戦いに
    敗れつつある中国

レスター・R・ブラウン

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 中国は今、戦争状態にある。相手は、領土権を主張する侵略軍ではなく、拡大する砂漠だ。まるで不意に攻撃するゲリラ部隊のように、古い砂漠は前進し、新しい砂漠も生まれている。中国政府は、様々な面で戦いを余儀なくされている。さらに悪いことに、拡大する砂漠は勢いを増しており、年を追うごとに中国領土に占める割合を拡大している。
 砂漠の拡大は、1950年以降、どの年代でも加速している。中国の国家環境保護総局の発表によると、ゴビ砂漠は1994年から99年の間に52,400平方キロメートル拡大した。前進するゴビ砂漠は、北京へ240キロメートルに迫り、中国の指導者は事態の重大性を感じ始めている。
 過耕作や過放牧が集中し、歴史的な規模の黄塵地帯を作り出している。中国北部や西部の一部にはほとんど植物が残っていないため、晩冬や早春の強風は、元に戻るのに何世紀もかかる表土を、まさにたった1日で何百万トンも吹き飛ばしてしまう。
 中国以外の国にとって、中国で生まれつつある砂漠に関心が寄せられるのは、「黄砂あらし」である。例えば、2002年4月12日、ソウルは中国からの大規模な「黄砂あらし」に飲みこまれた。学校は休校になり、飛行機は欠航し、病院は呼吸困難を起した患者で溢れた。そして小売販売は落ち込んだ。韓国人は、今や「第五の季節」と呼ぶ、晩冬から早春の「黄砂あらし」の到来を恐れるようになっている。日本もまた、中国からの「黄砂あらし」に苦しんでいる。韓国ほど直接砂塵を浴びるわけではないが、日本人はフロントガラスや窓に筋をつける砂塵と茶色い雨に不満を漏らす。
 毎年、北京や天津など中国東部の都市の住民は、「黄砂あらし」が始まると身を潜める。呼吸困難や目に入る砂塵もさることながら、人々は家に砂塵を入れないため、また、出入り口や歩道の砂塵や砂を取り除くために絶え間なく働き続ける。砂塵で農地は埋まり、放牧された家畜が死んでしまい、生計手段を失った農民や牧畜民は、もっと大きな犠牲を払っている。
 アメリカ大使館員が内蒙古自治区シリンゴルを訪問後、2001年5月に出した報告書は、シリンゴルの97パーセントは当局の発表では草地と分類されているが、3分の1は砂漠のようだと指摘している。同報告書によると、シリンゴルの家畜の数は、つい1977年には200万頭だったが、2000年には1,800万頭に増加した。シリンゴルで草地の研究を行っている中国の科学者は、もし最近の砂漠化傾向が続けば、15年以内にシリンゴルには住めなくなるだろうと話す。
 最新のアメリカ大使館の報告書によると、衛星画像は、中国北中部の2つの砂漠が拡大し、内蒙古自治区と甘粛省にまたがる1つの大きな砂漠を形成しようとしていることを示している。新疆ウイグル自治区の西では、タクラマカン砂漠とクムタグ砂漠という2つのさらに大きな砂漠も、また1つにつながろうとしている。その砂漠近くの主要道路は、恒常的に砂丘に覆われる。
 中国は、世界経済と地球の生態系との悪化する関係の最前線にある。13億もの人口と4億頭余りの家畜数は、土地を大きく圧迫している。北西部のヒツジやヤギの大群は、土地の保護に必要な植物を剥ぎ取るように食べ尽くし、かつてない規模の黄塵地帯を作り出している。中国北西部は生態学的な崩壊の危機に瀕しているのである。
 現在、土壌侵食が懸念されるような穀物作付地を林地に転換する農民に奨励金を支払うという政策によって、過耕作はいくぶん改善されている。しかし、過放牧はほとんど減少していない。中国のウシ、ヒツジ、ヤギの数は、1950年から2002年の間に3倍になった。同程度の牧養力を有するアメリカのウシは9,700万頭であるのに対し、中国は1億600万頭である。ヒツジやヤギは、アメリカが800万頭であるのに対し、中国は2億9,800万頭である。ヒツジとヤギは、中国の西部や北部に集中し、その土壌の保護に必要な植物を壊滅させている。そして風が、表土を吹き飛ばし、肥沃な放牧地を砂漠へ変える。
 砂塵嵐は、経済的にも社会的にも予期せぬ影響を与えている。何百万もの地方の中国人は、吹き積もる土が彼らの土地を覆うにつれて、追い立てられ、東方への移住を余儀なくされるかもしれない。甘粛省や内蒙古自治区、寧夏回族自治区では、拡大する砂漠が村人を家から追い出している。アジア開発銀行による甘粛省の砂漠化評価によると、4,000もの村が吹き積もる砂塵に侵略される危機にある。
 1930年代のアメリカで起こったダストボール(ロッキー山脈東麓の黄塵地帯)では、約250万人の『オーキー』(オクラホマ出身の移動農業労働者)などの難民が土地を離れることを強いられ、その多くはオクラホマ州、テキサス州、カンザス州からカリフォルニア州へと向かった。しかし、中国で形成されている黄塵地帯ははるかに大きく、そのうえ、1930年代のアメリカの人口はわずか1億5,000万人であったのに対し、現在中国の人口は13億人である。アメリカの移民は100万人単位であったが、中国では最終的に1,000万人単位になるかもしれない。『内蒙古自治区の怒りの葡萄』という題のアメリカ大使館の報告書が指摘するように「不幸にも、21世紀の中国の『オーキー』にはカリフォルニア州のように逃れる場所はない。少なくとも中国国内には」
 砂漠化の阻止は、木よりも草に−現存する草の回復を可能にすると同時に、裸地に草を植えることに−大きくかかっているのであろう。中国政府は、牧畜民に、所有するヒツジやヤギの40パーセント削減を奨励することで、砂漠の拡大を阻止しようとしている。しかし、富が収入ではなく保有する家畜の数で計られ、また、ほとんどの家族が貧困ライン以下で生活している地域社会においては、そのような削減は容易ではない。草地の回復のために家畜を畜舎飼いにして草を集めて飼料として与えるという方法を強く勧めている地方政府もある。
 中国は、砂漠の前進を阻止するための正しい措置をいくらか講じているが、家畜の数を持続可能なレベルにまで削減するには長い道のりである。現時点では、砂漠の前進を阻止する計画は何ひとつ実施されておらず、また、構想段階にもない。
 中国は世界経済に大きな影響力をもっており、世界中が、前進する砂漠との戦いにおける中国の勝利に関係がある。しかし、勝利は容易ではないだろう。全国人民代表大会環境資源委員長のチュ・グェピン(曲格平)は、技術的に実現可能な地域での土壌の改善には、283億ドルかかると予測している。前進する砂漠を止めることは、財源および人材の膨大な責務を要するだろう。その1つとして、費用のかかる南北の水路計画を構築するか、東に向かって進み、最終的に北京を呑み込む可能性のある前進する砂漠と戦うかという、厳しい選択を政府にせまるかもしれない。

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