トップ > レポート一覧 > Eco-Economy-Update 2004-8 ビル・クリントン絶賛、レスター・ブラウン最新刊「PLAN B 3.0」人類文明を救うために発売開始 Eco-Economy-Update 2004-8 世界の食物価格が上昇
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今年の穀物の収穫が始まる5月には、世界の穀物在庫量は59日分しか残されていないだろう。これは過去30年における最低水準で、1972年から74年に小麦とコメの価格が倍増した時と同じレベルである。当時、アメリカなどの輸出国によって、食糧難は駆け引き材料となり、輸出を制限したり食料が政治的な武器として使われた。エチオピアやバングラディッシュなど食糧不足の国では、多くの人々が餓死した。 そして今、一世代を経て、似たようなシナリオが展開しつつある。ただ今回は異なった理由で。1950年から1996年にかけて、世界の穀物生産量はほぼ3倍に増えたが、それ以降伸びは止まってしまった。過去4年間、毎年生産量は消費量に足りず、在庫を切り崩さなければならない。この期間、砂漠化の進行、地下水位の低下、気温の上昇、そしてその他環境の変化によって、農業での技術向上や追加投資による効果も、ほぼ相殺されてしまった。 基本食料品と飼料用穀類の価格は上昇している。シカゴ商品取引所における2004年5月受渡しの小麦の先物取引は、昨年中は1ブッシェルあたり2.90ドルだったが、最近4ドルを上回り、上昇率は38%である。同様に、トウモロコシ36%、コメ39%、そして大豆は1ブッシェルあたり5ドル強だったのが、10ドル強と2倍になっている。世界の二大主食の小麦とコメ、主要飼料のトウモロコシと大豆の価格上昇により、世界中で食料全体の価格が上っており、中国やアメリカなどの最大生産国も例外ではない。 中国では、穀物の価格が1年前より30%高く、今年3月の食物小売価格は2003年3月より7.9%上昇していると、国家統計局は伝えている。食物油の価格は26%、肉は15%、卵は19%の上昇率である。 基本食料品の国際価格の上昇は、世界中に影響を与えている。全米農業連合会(American Farm Bureau)のマーケット・バスケット調査で、アメリカ32州基本食品16品目の小売価格を調べたところ、2003年第一四半期に比べ2004年の同時期には、10.5%の価格上昇がみられた。 価格上昇率は、牛乳の2%から卵の29%までと幅がある。食物油の価格は23%上昇しているが、これは大豆の価格が2倍になった影響が出始めているからである。肉の価格はおしなべて上昇している。牛挽肉1ポンドあたり1年前は2.10ドルだったのが2.48ドルになり、18%の上昇。鶏肉1羽は18%、豚肉の切り身は10%上昇している。パンは4%、ジャガイモは3%の上昇である。(データは.earth-policy.orgを参照。) 大豆は過去15年、とうもろこしは過去7年における最高値を記録したばかりで、食料価格は第二四半期さらに上昇しそうだ。多量の穀物を飼料とする家畜の値段は、穀物価格の上昇に特に影響を受けやすい。一方、パンの価格は普通あまり上らない。通常小麦は、1斤の原価の1割以下しか占めていないからである。小麦価格が2倍になったとしても、パンの価格はそれほど上がらないであろう。 食料価格は、ほぼ全世界で上昇している。ロシアでは、今年2月のパン不足でパンの価格が2003年2月と比べ38%上昇した。以降、政府は1トン当り35ユーロの輸出税を課して、小麦の輸出を制限している。 南アフリカでは、とうもろこし先物取引価格が2004年初頭上昇した。主食の白トウモロコシの価格は、2003年12月から2004年1月の間に半分以上高騰した。主に家畜飼料に使われる黄トウモロコシの価格は、同時期30%上昇した。需要はうなぎ上りなのに生産量は下落しているため、価格は上昇している。世界人口は毎年7,000万人以上のペースで拡大し、収入の増加により、穀物飼料で育った家畜や家禽製品を買える人々が増えているからである。 世界の穀物生産の増加は、その需要の増加に追いつかない。砂漠化の進行、地下水位の低下、気温上昇などの環境の変化が主な原因で、多くの国で収穫が減少しているせいである。旧ソビエト連邦のカザフスタンで、1950年代展開されたバージン・ランズ・プロジェクトの例を見てみよう。穀物生産量を増やすために、オーストラリアとカナダの小麦地帯を超える広さの、未使用の草地が耕作され、生産量は劇的に増加したが、1980年には土壌浸食により生産性が蝕まれてしまった。それ以来24年間、カザフスタンの穀倉地の半分は放棄されている。 1980年代後半、サウジアラビアは、小麦の自給自足を目指す野心的な計画に着手した。地下深くの帯水層を開拓する事により、サウジの穀物生産高は、1980年の30万トンから1994年には500万トンに上昇した。残念ながら、帯水層は大規模な揚水に持ちこたえられず、2003年には収穫は220万トンに落ち込んだ。隣国イスラエルでは、給水量の減少によって、残されたわずかな小麦地帯を灌漑することも出来なくなり、輸入穀物へ頼らざるを得ず、すでに90%の依存率はさらに上るであろう。 食物の主要生産国で最初に減産の憂き目にあうのは中国で、その原因の一部は砂漠化の進行と帯水層の枯渇である。約2万4,000村が、砂漠化のせいで閉村されるか村の農業経済に深刻な影響を受けている。小麦の大部分が栽培されている国土の北半分の乾燥地帯では、毎年多数の井戸が枯渇している。こうした環境の変化と、穀物価格が脆弱なせいで生産意欲が萎縮して、収穫高は1997年の1億2,300万トンをピークに、2003年には8,600万トンへ30%減少している。 現在、穀物生産高の減少に、最も広い影響を与えている環境の変化は、気温上昇であろう。アメリカ農務省(USDA)による2003年9月の世界穀物収穫量の月間推定は、8月の推定より3,500万トン低かった。アメリカの小麦収穫量の半分に匹敵するこの減少は、8月ヨーロッパを見舞った強烈な熱波の影響による。ヨーロッパでは西のフランスから東のウクライナまで、穀物が枯れる気温の上昇で、収穫高が落ち込んだ。 2002年には、記録的な暑さと旱魃によって、インドとアメリカで収穫が減少した。2002年には9,100万トン、そして2003年には1億500万トンの穀物が全世界で不足しているのは、主要な食物生産国における記録的、あるいはそれに近いレベルの気温上昇によるところが大きい。 そこで今問題となっているのは、昨年の多大な不足分を埋め合わせられるほどの収穫高が、今年は期待できるかと言う事である。主要国における収穫の減少の原因となっている砂漠化の拡大や、地下水位の下落、そして気温上昇などの問題を解決する十分な対策は、残念ながらとられていない。そうした対策なしでは、食物価格の上昇は続く事であろう。 |
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