今年、世界の穀物生産量の不足分を埋めるのは、過去4年間不足が続きそれも毎年不足分が前年より増えている後だけに、そう簡単なことではない。2003年の1億5百万トンという不足分は、優にこれまでの記録を更新し、世界の年間消費量19億3千万トンの5%に上る。
4年間生産量が不足したせいで、世界の穀物在庫量は過去30年間のうち最低水準の59日分しか残されていない。小麦やトウモロコシの値段は過去7年、コメは過去5年における最高値を記録している。(データearth-policy.orgを参照。)
今年の収穫高で不足分は埋められるのだろうか?農家の人々がいつも直面する不確定要素に加えて、地下水位の低下と気温の上昇という新たな2つの問題と現在は取り組まざるを得なくなっている。今年も不作だったら穀物の価格はここ数ヶ月と同じ勢いで上昇し、全世界の食料価格もつり上がるだろう。
今年はかなりの生産量が必要とされている。まず、昨年の不足分1億5百万トンを補うに充分な量、そして今年増加した7千4百万人を養うため、さらに1千5百万トンが必要である。また、現在の穀物在庫量が59日分と恐ろしく低い水準にあるので、食料安全保障の上で最低限必要とされる70日分の水準にまで回復しなければならない。11日分の追加だがとりあえず今年は半分回復するとして65日分の水準を目指せば、さらに3千万トンが必要になる。
これでもうお分かりのことと思うが、現在の生産と消費の不安定なバランスを保つには、今年の穀物生産量の過剰分は前年より1億2千万トン必要である。だが、食料安全保障をそこそこにでも安定させるには、1億5千万トンの増加がいる。残念ながら、1億2千万トンすら望めるチャンスは1割にも満たず、5年連続消費量に生産量が追いつかないということになりそうだ。そうなると、問題はどれ位足りないか、そして世界の食料価格にどんな影響を及ぼすかということである。
今年の穀物生産高を推定する場合、小麦生産高のほうがコメやトウモロコシより予測しやすい。収穫はほとんど北半球の冬小麦で、昨年秋にまかれたものだからだ。主な生産国のなかで、中国、米国、ロシア、ウクライナでは、2003年に比べ今年の作付面積は減少しているが、インドとEUでは地域の変化は多少あるが、全体的には増大している。猛暑と旱魃になやまされた昨年の低水準から回復しそうなので、ヨーロッパとインドでは、今年の世界の小麦生産量は昨年より軽く3千5百万トンは増えそうだ。
水稲栽培の作付面積や生産高は年ごとにそれほど変わらず、今年大幅な増産が予想されるのは中国だけである。これは、政府による買い上げ価格のつり上げなど、4年間にわたるコメ生産減を食い止めるために政府が総力を挙げて取り組んだ結果である。早期予測によると、中国のコメ生産高は1億1千5百万トンから今年は1億2千2百万トンに増えそうである。他のコメ生産国で多少なりとも増産されれば、昨年に比べて1千2百万トンの増加も夢ではない。
そのほとんどが飼料に使われるトウモロコシの生産量の予測だが、全世界の生産量の40パーセントを占める米国からまず見てみよう。米国のトウモロコシ作付面積は、昨年とほぼ同じのようだ。米国のトウモロコシ栽培は降水に依っているため、気温の上昇や旱魃に影響されやすく、生産量は毎年かなり違う。昨年の記録的豊作に今年は追いつけそうもないが、楽観的観測として昨年と同程度が米国で見込まれ他の国では増加するとすれば、2004年の世界のトウモロコシ生産量は1千万トン増えることになる。
オオムギ、ライムギ、カラスムギ、サトウモロコシ、キビなどその他の穀物は、近年生産量が減少しているが、今年は3百万トン増加すると仮定しておこう。
小麦3千5百万トン、コメ1千2百万トン、トウモロコシ1千万トン、その他雑穀3百万トンの増加を合わせれば、昨年の収穫高より6千万トン増加することになる。これは進歩ではあるが、それでもまだ不足分を埋めるには6千万トン足りない。それに、在庫量を少しでも回復させようとするなら、9千万トン足りないことになる。
前にも述べたとおり、地下水位の低下と気温の上昇によって、穀物生産の拡大はさらに難しくなっている。中国におけるトウモロコシ総生産量の三分の一と小麦の総生産量の半分を担っている中国華北平原では、地下水位の低下と井戸枯れが進行している。穀倉地帯であるパンジャブ州などインドの大部分や、ロッキー山脈東側にある大草原地帯の南部そして米国南西部でも同じ現象が起こっている。またこれら3国では、都市での水需要が増えたせいで農場用水が足りなくなり、その他多くの国々では、帯水層の枯渇や都市化の影響で灌漑用水が足りなくなっている。
ここ2年間記録的な気温上昇のせいで、世界の主要生産地域で穀物は枯れてしまった。1970年以来、地球上の平均気温は0.6度上昇した。史上最も暑かった年4年のうち3年は、過去4年間のうちに起こっており、どの年も穀物生産量が不足した。今年の地球上の平均気温は、1950年から1980年の平均値である標準値を超えるのは確実である。どれ位超えるか、そしてどの食物生産地域が最も影響を受けるかはまだ分からない。
2004年に予想される不足量6千万トンが現実となれば、我々はいよいよ未知の世界へ踏み込むことになる。穀物在庫量が12日分落ち込み、史上最低の47日分となるか、食料価格が上昇し消費を制限しざるを得なくなる。しかし、これ以上切り詰めるのは、一日当り2ドルで生活している30億人の人々にとってはかなり難しい。実際には、不足分は在庫の切り崩しと価格の上昇によって埋め合わされていくことになるだろう。
予測される不足分の規模の大きさからいって、2005年の食糧難が1970年代初めのように政治的武器として使われることはほぼ間違いない。当時、米国などの輸出国は国内の食料価格の上昇を食い止めるために、穀物の輸出を制限した。
すでにその兆しは見え始めている。2002年9月、カナダでは熱波で収穫量が減少したため、国内需要が満たされるよう小麦の輸出を制限すると発表した。その2カ月後、旱魃で収穫量が減ったオーストラリアは、従来の取引国のみに輸出を限定した。2003年中ごろから、EUは穀物の輸出許可書の発行を数ヶ月にわたって中断した。そして2004年1月、ロシアはパンの価格上昇への対抗策として、小麦に輸出税を課した。
今から一年後には、穀物在庫量の減少と食料価格の高騰によって、低所得の穀物輸入国の政府が不安定化し、世界の経済発展を混乱させる危険性がある。その結果、日経株価指数やダウジョーンズやその他の主要指標が下がれば、人口問題、水生産性の向上、気温の安定化などの世界が一丸となった急速な取り組みに経済的な発展はかかっている事に、我々はようやく気付くかも知れない。
・【地球環境問題の書籍をオンラインで購入(ad)】
|