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Eco-Economy-Update 2005-2

トウモロコシを超えるセルロース原料で
エタノールの可能性を引き出す

ダニエル・マーレイ

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ブラジルのサンパウロには、ガソリンとアルコールとの2種類の自動車燃料がある。この国は1970年代半ばから、輸入ガソリンの代わりに地場産のサトウキビを蒸留したエタノールを使う取り組みを行ってきた。今日、同国の燃料販売額に占めるエタノールの割合は40%にのぼる。

 エタノールはさまざまな植物性原料(もっとも一般的には穀物やサトウキビやテンサイといった製糖原料となる作物)からつくられる。ガソリン車向けには添加剤または燃料希剤としてガソリンに混入されるが、「フレキシブル燃料自動車」(エタノールとガソリンのあらゆる混合比の燃料で走れる自動車)には単独で使用できる。

 2004年のエタノール生産量はブラジルが40億ガロン(150億リットル)で世界1位となったが、アメリカが、ほとんどトウモロコシだけで35億ガロンを生産し、急速に追い上げている。中国は小麦・トウモロコシから約10億ガロン、インドはサトウキビから5億ガロン、エタノールの利用推進を図るEUで最大の生産国フランスはテンサイと小麦から2億ガロン強を生産した。世界全体ではガソリン総消費量の約2%に代わるエタノールが生産されたことになる。

 石油を代替エネルギーで代用する取り組みは(1)気候変動、(2)地域経済の衰退、(3)主要産油国の不安定な状況、を背景に注目を集めている。バイオ燃料作物は成長過程で大気中の二酸化炭素を吸収するので、バイオ燃料燃焼時の温室効果ガス排出量が相殺される。石油をバイオ燃料に切り替えれば微粒子および一酸化炭素の排出を含む大気汚染を緩和できるうえ、バイオ燃料の生産による(1)雇用創出、(2)農家の増収、につながり、地域経済が活性化する期待も持てる。エタノールは地域生産の再生可能燃料として、T,エネルギー構成を多様化する、U,外国の石油への依存を軽減する、V,石油輸入国の貿易収支を改善する可能性を秘めている。

 エタノールの人気は高まっているが、生産手法と変換技術が非効率的な現状ではごくわずかな環境的・経済的メリットしかもたらされないばかりか、各国のフード・セキュリティーに影響を及ぼす恐れもある。バイオ燃料生産にとって最大の障害は土地の確保である。エネルギー生産のために耕地を拡大すれば、すでに農業・森林・都市のスプロール化の間で展開している熾烈な土地争奪戦に拍車がかかるだろう。気温の上昇と地下水位の低下は世界規模で起きており、食料の需給バランスも不安定になっている。世界の穀物繰越在庫量は史上最低に近い水準で、耕作を再開できる休閑地もほとんどない。食用作物に代えて燃料作物を栽培すれば食料供給がさらに逼迫して価格が上がり、裕福な自動車所有者対低所得の食品消費者という構図になりかねない。

 エタノールを最大限に活用するには、土地効率に一層の重点を置く、つまり単位面積当たりのエネルギー収率を最大化することが肝要になるだろう。トウモロコシはエタノール原料として、アメリカでは幅広い政治的支援を得ているが、効率性は最低レベルにある。フランスのテンサイやブラジルのサトウキビの単位面積当たり収率はアメリカのトウモロコシの約2倍にのぼる。

 エタノールの生産に消費されるエネルギー量も重要である。トウモロコシを栽培・輸送・蒸留して1ガロンのエタノールを生成するには、エタノールに含まれるエネルギーとほぼ同量のエネルギーが必要となる。テンサイはトウモロコシよりは効率がよく、生産エネルギー1単位につき2単位近くのエタノールが生産できる。だが、現時点で突出して効率的な原料はサトウキビで、収率は生産エネルギーの8倍に達する。エネルギー収支がプラスで高収率という点からして、穀物よりもサトウキビやテンサイといった製糖作物からエタノールを生産するほうが、理にかなっている。

 エタノール生産は(1)通年栽培、(2)豊富な労働力、(3)低い生産コスト、という強みを持つ熱帯のサトウキビ生産諸国で一気に拡大する可能性がある。これらの途上国で燃料需要が高まるなか、バイオ燃料の生産は地域経済を活性化し、石油の輸入を抑制するものと期待される。たとえば、ブラジルはアルコール原料用サトウキビを660万エーカーから1380万エーカー(560万ヘクタール)に増反するか、現在の作付をすべてエタノール向けに切り替えることで、燃料の国内総需要をまかなうだけのエタノールを生産できる。とはいえ、新たな耕地のために、すでに減少しつつある森林がさらに伐採され、深刻な環境負債となる恐れもある。

 エタノールが食料や森林と競合せずに世界の主力燃料となるには、穀物や製糖作物ではなく、もっと豊富で土地効率に優れたセルロース原料(作物の茎葉、林地の残材、草や成長の速い木など)を主原料にする必要がある。目下、酵素でセルロースを分解し、得られた糖を発酵させてエタノールを生成する有望な新技術が開発されており、カナダでは昨年、この技術を用いた実証プラントが2015年までの大量生産化を目指して稼動した。

 トウモロコシの茎、麦わら、イネの茎などは通常畑や水田に捨て置かれ、最終的には鋤き込まれるか焼却される。これらの1/3を集めてバイオ燃料をつくれば、一種の副産物として農家の収入が増え、なおかつ土壌養分を維持し、侵食を防ぐのに必要な程度の有機質も残せる。アメリカの場合、持続可能な方法で収穫される作物の茎葉から現在の4倍に相当する145億ガロンのエタノールが、新しい土地を開墾しなくても生産できる。

 耐寒性の草や成長の速い木といった「エネルギー作物」は従来の澱粉作物よりエタノール収率が高く、エネルギー収支も優れている。有力候補のひとつであるスイッチグラス(土壌侵食対策に用いられる丈の高い多年生植物)は最低限の灌漑、肥料、除草剤で育つうえ、1エーカー当たりのエタノール収率はトウモロコシの2〜3倍にのぼる。こうした植物は条件の悪い土地でも収穫できるだろうから、耕地と森林をエネルギー作物の生産に使わなくてすむ。

 世界のエネルギー需要は依然として増え続けており、クルマの燃費を大幅に向上させない限り、バイオ燃料は需要のごくわずかしかカバーできない。幸い、必要な技術は手頃に利用できる。自動車生産を今日市場に出回っているようなガソリンと電気を併用するハイブリッド車に切り替え、車両重量と空気抵抗を減らすことで燃料消費量は数倍削減される。ハイブリッド車にバッテリーを増設し、差し込みプラグをつければ、短距離なら(望ましくは風力発電で得た)電力のみで走行できるようになり、燃料需要はエタノールだけでまかなえるレベルまで減少する。

 エタノールの応需能力を高めるには、バイオ燃料生産への一貫した法規制面からの支援やクルマの燃費向上に加え、現行の研究開発でバイオマスのエタノール変換技術を改良することが必要になる。政府のエネルギー補助金を石油探査などからバイオ燃料開発へシフトさせるのも、新たな油田が見つかりにくくなっている現況にあっては理解の得られる選択肢である。燃費が改善され、効率のよいセルロース原料が使用されれば、バイオ燃料は世界の自動車燃料供給に大きなシェアを占める可能性を持っている。

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翻訳提供/禁無断転載
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