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Eco-Economy-Update 2006-5

夏の熱波で5万2千人以上のヨーロッパ人が死亡

 

 

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 連日の高温と、今夏は再び猛暑になる可能性があるという気象学者の警告を受け、ヨーロッパの公衆衛生当局者と政治家は、2003年の破壊的な熱波を再検証している。その強烈な熱波では、穀物は枯れ、川は干上がり、森林では火災が発生し、ひと夏で多くの犠牲者が出た。ヨーロッパ全体の被害を浮き彫りにするデータが、その後数年たってようやく明らかにされつつあるが、この「静かな大災害」の全容は、いまなお大部分が明かされていない。2003年夏の熱波では、合計で5万2千人以上のヨーロッパ人が死亡し、欧米の歴史において、もっとも破壊的な気象災害の一つになった。
  2003年、ヨーロッパは少なくとも過去500年で最も暑い夏となり、多くの国々で、最高気温が更新された。異常な高温は6月に始まり、8月最初の2週間の容赦のない熱波でピークに達した。日中も夜間も気温は高いままで、高齢者をはじめ、多くの災害弱者が焼けつくような暑さで死亡した。
  病院は、非常に大きな負担を抱え、葬儀屋と葬儀場は悲鳴を上げた。フランスでは、熱波の発生を警告する医師の声は、その大問題の認識を拒絶する同国保健省によって抑えられた。このことは、数日で700人以上の死者を出した1995年のシカゴの熱波を、行政が当初拒絶したことを思い出させるものであった。しかし死者数が膨らむにつれて、仮の遺体安置所が必要となり、「無視して放置」することはもはやできなくなった。
  報道では、多数の犠牲者が出る恐れを予測していたが、より正確な死者数が明らかになったのは、熱波が終わってずいぶんたってからであった。フランスは、不十分な医療機関と緩慢な政府の対応への批判に直面し、熱波の真の被害を明らかにする疫学的調査を発表した最初の国の一つになった。2003年9月末には、フランス国立保健研究所は、8月の最初の20日間で、熱波により1万4800人以上が死亡したと発表した。熱波のピークには、死亡者数は1日で2千人を超えた。
  このフランスの報告書とその他の当初の数字を用いて、2003年10月にアースポリシー研究所は、2003年ヨーロッパの熱波での仮の死者数集計を詳しく伝えた。当時は、高温のために約3万5千人が死亡していたようであった。当研究所では現在、この数字さえも実際より少なく見積もっていたことを確信している。過去数年間で少しずつ漏れ出てきた新たな情報の中で、最大の驚きはイタリアのデータであった。イタリア国家統計局によると、2003年夏の死者数は、前年より1万8千人以上多かった。イタリアでは、前年の気温より平均で約8.9℃も高かった地域もあり、8月だけで、高温関連と思われる死者数は9700人であった。これらの数字は、イタリア全土で熱波によりおよそ4千人が死亡したというイタリア保健省の当初の予想を大きく上回った。
  さらに犠牲者数の修正は、2003年8月の大半で、気温が40℃を超えたポルトガルについて、欧州疾病予防管理センターが発表した。ポルトガルの熱波関連の死者数は、同国国立保健研究所による早期推定の1316人から、2099人に増加した。ベルギーでは、1833年以来の王立気象学会の記録史上最高気温となり、6月から8月の死者数は、当初予想の10倍近い1250人となった。そして、最近のスイスのデータによると、1540年以降もっとも暑い夏となった2003年の熱波で、975人が死亡したことが分かった。新たなデータでは、合計すると、2003年夏ヨーロッパの熱波関連の死者数は、早期推定より1万7千人増え、記録的な5万2千人となった。
  メディアでの強烈な印象は言うまでもなく、後にはっきりとしたダメージや死者を残すハリケーンや竜巻とは違い、熱波は静かに人命を奪う。たとえ高温によって循環不全、呼吸器不全、脱水症を引き起こしていたとしても、検死官の報告書には、一番の死因として「暑さ」があげられることはほとんどない。従って、熱波が終わっての死者数が平年の死者数と比較できて初めて、正確な犠牲者の数が分かり始める。しかし、公衆衛生当局の失敗を認めたがらない政府は、たいてい、そのような数字を目立たぬように公表するのである。
  2005年後半、世界は、これまでアメリカを襲ったもっとも破壊的なハリケーンの一つで、多額の経済的損失と1300人以上の死者を出した、ハリケーン「カトリーナ」の余波に集中した。ハリケーン「カトリーナ」は深刻な大災害であったが、奪われた命の数は、2003年ヨーロッパの熱波での犠牲者数に比べるとわずかであった。熱波の死者数の報告は、現在の状態を受け、広くマスコミ報道されることなく、各国から2年以上かけて少しずつ漏れでてきたため、政策立案者と一般市民はその大惨事の全容を把握しておらず、それゆえ気温上昇の危険性を甘くみている。
  人々、特に政府高官は、強烈な暑さがもたらす脅威について、確かな情報を必要としている。実際に2003年の熱波のあと、多くのヨーロッパ諸国は、高温警報システムを強化した。フランス保健省は、2003年の失策に対する国民の怒りを受けて、病院のベッドや医療従事者の増員のための資金を増やし、また、熱波の間もっとも苦しむ高齢者のケアに新たに焦点をあてることを発表した。スペイン政府の熱波対策計画には、社会福祉事業の専門家および医療専門家に対する啓蒙活動や、特殊なケアを受ける可能性が高い人々の任意の登録、そして日々の死亡者数監視体制が含まれる。
  約2千人の科学者の世界規模の団体である、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、地球の温暖化が進むにつれて、今後より極端な気象事象が発生すると予測している。今世紀末までに、地球の平均気温は1.4〜5.8℃上昇すると予測されており、気温が上昇するに従い、より頻繁にさらに強烈な熱波が発生する。それゆえ、世界気象機関は、高温に関連した犠牲者の数は、20年以内に倍増すると予測している。
  ハドレー気候研究センターとオックスフォード大学の科学者による2004年の報告によると、人間活動、すなわち、化石燃料を燃焼して大気圏に温室効果ガスを排出することは、2003年ヨーロッパで非常に多くの人命が犠牲になったような強烈な熱波に見舞われる危険性を2倍にしている。将来のさらなる気象災害を避けるためには、炭素排出量を迅速かつ劇的に減少させるための一致団結した取り組みが必要である。

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