ワシントンDCに本部を置く研究組織ワールドウォッチ研究所は、気候変動に対する戦略を失敗させないためには、都市のスプロール現象に歯止めをかける奨励策を戦略に組み込む必要があるだろうとの新たな調査報告を出している。炭素排出による大気温暖化の原因として、道路輸送は急速に大きな問題になっているが、都市圏のスプロール化がこの急拡大を助長している。
「エネルギー政策をめぐる最近の討論では、風力タービン、効率のよい車、その他の新テクノロジーが多くの注目を集めているが、都市デザインの方法を変えることは、気候を安定させるためにはさらに重要なことだろう」と『シティー・リミッツ:スプロール現象にブレーキをかける(City
Limits:Putting the Brakes on Sprawl)』の著者であるモリー・オメーラ・シーハンは語っている。「渋滞する道路、汚れた空気、近隣区域の環境悪化といった地元の問題はすでに、自動車を基礎とする都市開発、すなわち“スプロール化”に対する反発をいっそう激しいものにしている。スプロール現象が気候変動に果たす役割を理解すれば、公園を増やして駐車場を減らすという方向転換が加速されるだろう。都市はより健康的で住み良くなり、地球を気候変動から守ることもできるのである。」
スプロ−ル現象がすでに人々の健康を台無しにしていることは、多くの研究が証明している。毎年、世界中で交通事故によって奪われる人命は100万に及ぶ。先進工業国の都市を調査すると、自動車利用がきわめて盛んな場所で、一人当たりの交通事故死亡率が非常に高くなっている。また大気汚染による病気で寿命を縮める人の数が、事故で死亡する人を上回る国もある。スプロール化した都市では自動車の運転が不可欠となり、歩いたり自転車に乗るのは実用的でなくなる。そうなると人々は必要な運動を奪われ、ウエスト・サイズが大きくなる(いまではアメリカ人の3人に1人が太り過ぎだ)。
アメリカの都市は数十年前から、人口増加よりはるかに速いスピードで広がってきた。たとえばシカゴでは1950年から90年までの間に人口が38%増加したが、市の面積はその3倍以上の124%も拡大した。
だがアメリカ国民は、スプロール現象に対する不満をつのらせている。最近の世論調査では、地元の心配事のトップがスプロール現象だった。そして2000年の選挙でアメリカの有権者は、スプロール化関連の問題に取り組むための地方や州のイニシアチブおよそ400件を承認した。
少なくとも38の州で、よりコンパクトな開発を奨励する法律が可決された。
「アメリカの都市は、世界のなかでもきわめて自動車依存度が高い」とシーハンは述べている。「アメリカのドライバーは、世界の人口の5%以下の人々を運ぶために、世界のガソリンの約43%を消費している。今日アメリカが直面する大きな問題は、途上世界ではさらに大きな問題である。すなわち、自動車中心のモデルに背を向けて、より望ましい土地利用活動と害の少ない輸送システムを発展させられるか、というものである。」
10年後には世界の人口の大多数が都市に住んでいることだろう。今日決定される都市デザインが、数十年先の地球温暖化にきわめて大きな影響を持つのである。自動車利用度がまだ低い発展途上世界の諸都市で、その影響は特に大きい。そうした場所にアメリカの自動車中心のモデルが導入されれば、非常に不幸な結果になるだろう。
たとえば2030年までに香港を除く中国では、都市居住者が7億5200万になるだろうと予想される。もしそれらの人々が1990年のサンフランシスコ周辺の平均的住民の輸送手段を模倣すれば、中国の都市部だけで輸送による炭素排出は10億tを超えるかもしれない。これは、1998年に世界中の道路輸送から放出された炭素とほぼ同量である(中国では都市部の鉄道網が人気を得ており、炭素排出量は減少している。そのためこの最悪のシナリオが現実化することは、まずないだろう)。
「すでに発展途上国の都市のなかには、自動車を重視せず、代わりに公共輸送機関を整備する戦略が効果的であると証明したところもある」とシーハンは述べている。その顕著な一例が、ブラジルのクリチバ市である。クリチバでは1972年以来、バス専用道路網を建設し、その道路沿いを重点的に開発する地域に指定した。そしていまでは250万の市民が、よりよい空気とより多くの公園を享受している。
現在ラテン・アメリカの他の都市でも、クリチバ方式の基本要素をそれぞれに適した形で取り入れている。コロンビアのボゴタでは最近、“トランス・ミレニオ”というバス網の整備に着手した。また自転車道路を延長し、大胆な「ノ・カー」デーを試みた。週労働日の真ん中に設定されたこの日、人口680万の都市は――自動車なしで――正常に機能した。ボゴタの例も、バスと自転車の利用を維持するためには人口密度の高さが重要であることを示している。もしボゴタが典型的なアメリカの都市のようにスプロール化すると、現在の20倍以上の土地面積を占めることになるだろう。
スプロール現象への反発を示すもう一つの例は、軽鉄道や他の種類の公共輸送機関の増加である。軽鉄道建設が急増して、西ヨーロッパの軽鉄道の数は2000年に100を超え、1970年以降で最多になった。アメリカでは数十年間、公共輸送機関の利用が低下していたが、この5年間は連続で増加している。オレゴン州ポートランドの都市計画立案者たちは、新しい軽鉄道路線のおかげで、この地域では8カ所の駐車場の建設と主要ハイウェーの2車線の増設をせずにすんだと考えている。(2001.6.28発表)
|