地球環境総合雑誌ワールドウォッチマガジンより
コスタリカのモンテベルデ雲務林保護区は、世界で最も注意深く保護された公園だ。ここに生息していたオレンジヒキガエル(Bufo periglenes)の繁殖期は幻覚的ともいえる光景を呈していた。オスは鮮やかなオレンジ色に染まり、目は黒いガラス玉。メスはオスよりやや大きく、暗緑色で、そこに黄色で縁どられた鮮やかな赤い斑点が浮いていた。
このオレンジヒキガエルが、大勢現れた最後の年は1987年だった。88年には10匹しか確認されず、その翌年、確認されたのは1匹のオスだけだった。
生息地の自然環境の破壊、農薬汚染、さらには侵入種なども両生類には脅威である。しかし、この保護区はそうした脅威からは、十分に守られていた。その雲務林で、1990年までに、このオレンジヒキガエルをはじめ19種の両生類の個体数が激減するか絶滅してしまった。こうした現象は世界各地からも報告された。
コスタリカやパナマを研究フィールドにしていた爬虫類・両生類学者は、次の様に報告している。「私が朝に見つけた死んだカエルと死にかけたカエルは、ほとんど全てが、正常な、鳴く姿勢のままフローズしていた。昨夜、川辺にやってくるなり死んだように見えた。死骸の多くは、外見的にはまだ生きているようだった。死にかけているカエルは昏睡し、何の反応も示さず、四肢と頭にけいれんと震えが見られた」
オーストラリアでは東部のブリスベーンからケープヨーク半島にいたる地域で、1970年代以降、雨林に生息する少なくとも14種のカエルが絶滅したか、または個体数が90%以上減少した。いずれも川辺に生息しているカエルであり、短期間での絶滅、激減であった。これは高病原性の菌が水で運ばれていることを示唆していた。研究者たちはパナマとオーストラリアのカエルの死骸から採取した皮膚の標本を比較し、同一タイプの生物に感染していることを発見した。それがツボカビ(Chytridiomycota)門に属する真菌であった。
生態学者のなかには、「気候変動がカエルにストレスを与え、カエルの免疫機能を低下させた可能性がある」と指摘する者もいる。ヒトにとっては、両生類は目立たない存在である。しかし、魚類・鳥類・爬虫類・哺乳類など、他の多くの動物にとっては重要なエサとなっている。
一方、両生類は主要な昆虫捕食者である。1970年代、インドは欧米・日本向けに大型の食用ガエルの供給国となった。その結果、多くの沼地から在来種のカエルが消えて、蚊が爆発的に増え、マラリア感染が増えた。こうした直接的な影響以外にも、カエルはヒトにとって貴重な情報をもたらしうる。たとえば、次のようなことがある。
1.エクアドルの住民が昔から痛み止めに、カエルの皮膚の分泌物を利用している。これはモルヒネの200倍も強い効力をもち、しかも副作用がないと報告され、アメリカの製薬会社が開発を進めている。
2.南アメリカのさまざまなドクガエルの皮膚の分泌物には麻酔剤、筋肉弛緩剤、心臓刺激剤に利用しうる物質が含まれていると言われている。
3.アメリカアカガエルは体内の水分の65%が凍結してしまうような低温に耐えられる。残りの水分を液体に保つために、何らかの不凍物質を生成しているとみられる。
4.オーストラリアのカモノハシガエルは胃のなかで卵を孵化させる唯一の動物であった。消化酵素のスイッチをオフにするシステムをもっていたのであろうが、1981年に絶滅した。
さて、最後になるが両生類を保護しようとするだけでは、両生類は保護できない。気候変動・森林消失・汚染・侵入種・人口抑制などに、総合的に取り組むことが必要なのである。
アシュレイ・マトゥーン著
―地球環境総合誌「ワールドウォッチマガジン 日本語版」
2000年8/9月号より抜すい―
web注
【カエルツボカビ症】出典:Wikipedia
ツボカビ症(ツボカビしょう)は、ツボカビの一種カエルツボカビ(atrachochytrium dendrobatidis)によって引き起こされる両生類の致死的な感染症である。ツボカビ症は、北米西部・中米・南米・オーストラリア東部で劇的な両生類の減少あるいは絶滅を引き起こしてきた。野生の個体群でのこの疾病に対する効果的な対策は存在しない。この病気は世界的な両生類の生息数と、世界の両生類種の30%もの種数の減少に関連している。(抜粋)
※また、詳細については以下が詳しい(WWF)
http://www.wwf.or.jp/
WWIのレポート
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