イリノイ州産のとうもろこしからカンザス州産の小麦に至るまで、アメリカの穀物価格が1990年以来最も急騰している。価格上昇の影響は、食料品店だけではなく国際食糧政策にまで及んでいる。とうもろこし、調理油などアメリカの食料援助計画のために通常購入される農産物の価格が高騰しているためだ。アメリカは世界最大の食糧援助国である。アメリカの主要な食糧援助プログラムである「平和のための食糧」を通じて行われる援助高は、過去2年間で農産物価格が35%上昇したのを受けて、2000年から2007年の間に50%以上落ち込み240万メートルトンに減少した。
ウォールストリートジャーナルは価格高騰の理由を次のように説明している。中国、ロシア、中南米諸国の穀物需要の増大で世界の食糧備蓄量が減少していること、さらに、バイオ燃料、特にエタノール製造のため、とうもろこしなど農産物を利用しようとする取り組みに注目が高まっていることなどである。さらに、輸送費上昇によりアメリカ産農産物の被援助国向け船舶輸送コストも増大し、食糧援助の価格を押し上げているのだ。
高騰する食糧価格に頭を痛めているのはアメリカだけではない。カナダ、イタリア、メキシコなども同じ傾向にあり、消費者レベルであらゆる食糧の価格や供給量に影響が及んでいる。とうもろこし価格が跳ね上がる中で、今年初め、メキシコ全土でトルティーヤ危機が発生した。メキシコの伝統料理トルティーヤが多くの貧しい人々にとって手の届かない高値の食品となり、より栄養価の低い食品を選ばざるを得ない状況に追いやられたのだ。
各国の食糧支援政策も一因となっている。例えば、国連食糧農業機関(FAO)の報告によると、2000年から2005年の間にアメリカ産小麦の1トン当りの生産者価格が94米ドルから123米ドルに急騰し、カナダ産小麦の1トン当りの生産者価格も92米ドルから103米ドルに上昇した。しかし、この価格上昇がカナダの食糧援助全体量に与える影響は少ない。というのも、カナダ政府は同国の食糧援助高の50%までは開発途上国で購入することを法的に認めているからだ。輸送費節約にもつながる。対照的にアメリカの食糧援助政策では、国内生産者の保護の理由もあり、アメリカの食糧援助品を国外で購入することを禁じているのだ。
世界食糧計画によると世界で約8億5400万人が日常的に飢餓に苦しんでいる。その中で、アメリカがこれらの人々を支援するための食糧購入量を削減しているのは、大きな問題といえる。また、輸入食糧のコスト上昇は、飢餓の問題を抱えながらも食糧援助の対象ではない国々に大きな負担となっている。以前に比べて国が食糧を輸入できる量が減っているのだ。
世界の食糧備蓄量、特に穀物の余剰供給量が引き続き下落する中で、市場が価格変動から生じるショックを吸収することがますます難しくなっている。従来と同じ数の人々の食を確保するためには、食糧援助国が援助の枠を増やすことが必要となるであろう。しかし、現在のアメリカの農産品価格上昇への対応を見ると、その可能性は低いといえる。
本記事の発信元は、eye on earth(ワールドウォッチ研究所とブルームーンファンドの共同プロジェクト)。
・【地球環境問題の書籍をオンラインで購入(ad)】
|