【WorldWatchマガジン2008/1・2月号より】
多くの野生生物の種と同様に、ラングールも人口急増や人間活動の拡大に脅かされている。昔ながらの信仰よりも、近代的な経済を優先しようとする人々も増えてきた。かつてはハヌマーンと言えばあらゆる問題を払拭してくれる神というイメージであったが、今はハヌマーンと聞けば、あらゆる問題の前兆となるサルというイメージに変わりつつあるのが現状だ。
人口が拡大し、アジアの森林が減少する中で、ラングールは資源や資源のありかを見つける上で今まで以上に人間に依存せざるを得なくなった。それ以外に生存の道はない。ラングールは、その食料や生息場所を人間やイヌ、ウシ、ヤギなどの家畜と共有して生きていかなければならない。そこには極めて壊れやすい関係がうまれる。森林に住むラングールの食料は、木の枝からむしりとった植物が中心であるが、森林に居住しないラングールは、食料を見つけるのもより複雑となる。インド亜大陸の寺院や古代遺跡では、ご飯、パパド、チャパティなどの調理食品が、ラングールの普段の食事となっている。
ラングールがこういった場所に群がり、聖職者、礼拝者、観光客から食事を与えてもらうからだ。何の苦労もせずに食料を得ることができる完全な環境だと思うかもしれない。しかし、多くの有毒な果実や葉を食する能力で有名な森林に居住するラングールが、物乞いするラングールよりも、より健康でバランスのとれた食事をしているということも考えられる。
食料の施しが地面に山積みに放置されている場合も多く、すぐにラングールどうしの食料をめぐる争いで騒々しい喧嘩がはじまる。
人が多く住む地域では、ラングールがドアを操作し、窓から出入りし、行商人から果実や野菜を盗み、通行人から昼食を奪うすべを学習している。これら全ての行為を瞬時に手際よく行うのだ。へまをしたラングールは手足を切断されたり、あらゆる武器を投げつけられる。つまり、ラングールが人間の居住区や耕作地の近くに住むのであれば、激怒した農民やイヌにひどい目に遭わないように、警備隊に銃撃されないように、短い鎖でつながられることのないように、医療研究施設やサルを食する部族に売られるようなことのないように、作物を奪い取るすべを学習しなければならないのだ。
この抜け目ない動物を悩ませているのは、食べ物を探すことだけではない。どこへ行くにも、どこで休息するにも、どこで眠るにも、全ての決定は拡大を続ける人間に左右される。町や都市では、ラングールは大半を地上で過ごし、往来する車などを避け、高圧線を超え、激怒する人間や捕食動物であるイヌを避けなければならない。そして、夜は家の屋根で過ごすのだ。毎年、数え切れないほどのラングールが、自動車にひかれ、感電し、イヌから攻撃され、人間から物を投げつけられるなどして命を落としている。
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※ワールドウォッチマガジンは米ワールドウォッチ研究所が隔月で発行している。詳細
・2007年9・10月号ではなく、2008年1・2月号でした。訂正します。(1/26)
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