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 トップ > WorldWatchマガジン > GROUNDWORK「アスベスト問題でも生かされなかった予防原則」

アスベスト問題でも生かされなかった予防原則

ワールドウォッチマガジン表紙
WWマガジン2006年 1/2月号より

GROUNDWORK「アスベスト問題でも生かされなかった予防原則」-1

 最近、建築業者に教えてもらったのだが、わが家の外壁のサイディングボードは耐火性の、優れた断熱材であり、これらの特性が20世紀における不可欠の建材にしたという。そして、彼はこの材料には決して触れない―新しい窓をはめるのに数十枚を切り取ることも避ける―と言った。その粉塵が中皮腫と呼ばれる悲惨なガンを引き起こすおそれがあるからだという。私の家族を外界の危険から守るように思われた外壁はアスベストでつくられているのである。

  アスベストが初めて生産・宣伝されたとき、だれがこの「魔法の鉱物」がこんなに恐ろしいものであることが判明すると予想しただろう。今後数十年間に、ヨーロッパだけでおよそ40万人が中皮腫などアスベスト関連の疾患で死亡すると予測されている。人間の健康に対するアスベストの危険性の兆候は1898年にすでに現れていたのだが、経済的利点が懸念を圧倒した。産業と政府は基本的に、新製品と科学の進歩について「見る前に跳べ」式のアプローチをとっていた。この規範はいまも健在である。
今日、この規範はあまりにリスクが大きいように思われる。世界人口は1950年の2.5倍、世界の経済活動は実質で8倍に拡大しており、その結果、経済学者のハーマン・ディリが「フル・ワールド」と呼んでいるものが出現している。もし、おおむね規制されないままに成長しつづける科学技術の産物をこのフル・ワールドに放出すれば、大規模な破局が起こることは目に見えている。実際、インドの科学環境センターのスニタ・ナラインは、先進諸国は依然として「自分たちが生み出した諸問題に、まったく後れをとっている」と指摘している。これらの問題が深刻化するにつれ―たとえば組み換え遺伝子が暴走したり、核廃棄物がテロリストの手に渡るなど―自然と社会は、今日の魔法の生産物の予期せぬ結果のあと始末にますます迫われるだろう。

 しかし、より安全な将来を築くことは可能だ、と予防原則の支持者たちは論じる。この考え方は、生産物が市場に出る前に、その生産者に安全性の証明を義務づけることによって、「数年後、場合によっては数十年後に、被害者側にその生産物の有害性の立証責任を負わせる」という、従来の慣行を180度転換させるものである。この予防原則は一般に次のように定義されている。「ある活動が環境または人間の健康に危害を与えるおそれが認められる場合には、たとえその因果関係が科学的に完全に証明されなくても、予防措置がとられなくてはならない」。サンフランシスコ市から欧州連合(EU)まで、さまざまな政府がこの原則を公式の政策として導入している。また、北海の汚染、オゾン層破壊化学物質、漁場、気候変動、持続可能な開発などに関する条約にも、この原則が取り入れられている。

  この原則の革新性は、たとえ危険性が証明されなくても予防措置が要求されるという点にある。新しい生産物は無罪を証明されるまでは有罪と仮定するという考え方と、市民は新しい生産物や技術を導入するかどうかの決定に発言権をもつべきという考え方とともに、この予防原則は企業活動と科学の進歩についての新しいビジョンを創出する。それは従来のビジョンよりも壮大である。なぜなら、それは長期的業績に価値を置き、株主の利益を超えて労働者、市民、将来世代のニーズを考慮し、環境の健全性に関心を向けるからである。

 予防原則は社会がどのように発展すべきかについての非常に多くの想定を否定するので、激しい批判の的になっている。一部の批判者は、事実よりも不安に影響されやすい非専門家の一般市民の意見を重視することになるので、この原則は反科学的だと主張する。また他の批判者は、まだ分かっていない有害な結果をどうして予防できるのかと問う。さらに、この原則は安全のための非常に高い障壁を設けるので、その順守は技術革新を阻害すると指摘する人もいる。

 しかし予防原則の支持者たちは、これとは異なる観点から安全性の問題を捉え、一連の問いを提示する。もしある生産物や物質の安全な代替物が存在するなら、いかに小さくても非常に不確実なリスクをどうして受け入れられるだろうか。この考え方に基づいて、デンマーク環境局は玩具へのフタル酸の使用を禁止した。この可塑剤は動物の生殖異常と関連することが知られているが、人体への危険性はまだ証明されていない。

  予防原則の支持者は、現在の規制は消費者の健康を守る役目をしていないと指摘する。ある研究が論じているように、もし有害化学物質の放出を規制する法律がしっかり機能しているなら、なぜ妊婦が淡水魚の残留水銀が危険かもしれないと警告されるのだろうか。また、健康に重大な害を及ぼす可能性のある新しい生産物や製法を、ますます密集化し一体化するこの世界に放出することの帰結について、警鐘を鳴らす人々もいる。
予防原則は企業活動の観点から画期的かもしれないが、実際のところ、それは日常生活の一部になっている。「同情よりも安全を」、「見てから跳べ」、「後で悲しむよりも予防するほうがまし」(スペインの諺)、「穴を一つしかもたないネズミはすぐに捕らわれる」(フランスの諺)といった多くの格言は、個人レベルで予防の重要性が理解されていることを物語る。また、この原則は長年、医療の場で用いられてきた。すなわち、「第一に患者に害を与えないこと」という医師の規範は、外科手術や投薬が健康を脅かす可能性があることから、それらの安易な決定に警告を発するものである。経済活動についてはそのような警告は存在しない。それはおそらく、この地球と人間社会は長年、科学・産業活動のやっかいな諸問題を吸収しうるほど、十分に強固にできていると考えられてきたからであろう。(次のページへ)→

ゲイリー・ガードナー
(Gary Gardner)

WWマガジン2006年 1/2月号より

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