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China Watch 2006-6

【中国開発】生まれ変わる北京、快適で公平な都市交通への一歩

リュー・インリン

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 ラッシュアワーはいつも、北京のバス通勤者にとって悪夢だ。バスの乗客たちは、あらゆる方向から押しつぶされながら、窓の隙間から入ってくる汚染された空気や冬の冷たい風に耐え、夏にはみんなで焼け付くような日差しに苦しむ。そして、うらやましそうに視線を落とす先には、喉から手が出るほど欲しいエアコン付きの私的空間を満喫しながら、小型セダン車で交通渋滞の隙間をぬって駆け抜ける市民たちがいる。しかし、12月30日に北京で初めて、バスを用いた快速公共交通システム(BRT;Bus Rapid Transit)専用車線が開通したため、これまでなら考えられなかったことだが、そのうち乗用車の人たちがバスの乗客に嫉妬するようになるかもしれない。

 17か所の停留場がある全長16キロメートルのこの路線は、「南中軸BRT1号線」と呼ばれ、北京市の南地区のにぎやかな商業エリア4か所や、計20万人が住む8つの住宅地域を通る。これまで2か月間の運行で、圧倒的な数の乗客を引きつけ、1日あたり平均8万人が通勤の足として利用した。当局では当初、2007年に乗客数のピークを迎えて1日当たり約15万人になるだろうと予測していた。しかし、運行を始めて3日目で、すでに乗客は13万人近くにのぼった。「労働節(メーデー)のゴールデンウィーク期間中、乗客は15万人を超える可能性が高い」と路線を管理する北京BRT社副社長のヤン・ヤビン氏は語る。5月初旬に7日間の連休があり、この時期、北京には観光客や商業者が大量にやって来るのだ。

 BRTとは、高速バスが専用車線を走行するシステムを指す。1970年代にブラジルで開発されたのが始まりだが、今、中国にそっと根を下ろした。上海市、重慶市、承徳市、瀋陽市など国内20以上の都市で、BRTシステムが建設あるいは設計されている。BRTでは、鉄道輸送のように専用経路を走行する性質と、バスのもつ柔軟性とが組み合わされている。また、鉄道よりかなり安上がりで、建設運営費が10分の1で済む。さらに、建設にかかる期間も、一般的には設計から完成まで3年未満である。

 北京BRT社は現在40台以上のバスを走らせており、4月までにさらに50台増やして計90台にする予定だ。ヤン氏によると、この新しい交通システムの大きな魅力は、便利で、安く、快適で、速いことにあるという。いつもなら1時間かかるところに、37分でたどり着けるのである。全長18メートルのバスには、普通の路線バスには付いていないエアコンや、コンピューター制御の停留所アナウンスシステムが備わっている。さらに、低ステップ車なので、車いすでも乗れる。これは、北京市がごく最近、市内の交通網に導入し始めた特徴だ。「私たちは、BRTを『一般住民のためのぜいたくなセダン』にしようと考えています」と、ヤン氏はこの新システムに対する誇りと自信を示した。

 能源基金会(米エネルギー基金)の北京事務所で交通プログラムオフィサーを務める何東全(ヘ・ドンカン)氏は、南中軸路を、非常に成功を収めた技術モデルだと考えている。北京市東地区では現在、同市2本目のBRTとなる朝陽路の建設が進められており、さらに北地区と西地区を横断する2路線が計画されているという。これら3路線はすべて、2008年までに完成させ、北京オリンピックに間に合わせる予定だ。そして、BRTの路線全長は60キロメートルに延びることになる。

 何(ヘ)氏は、BRTは都市交通における大問題に取り組む良い方法だと話す。「多くの人は、小さな乗用車の普及は行き詰まってしまうということに気づいていません」。人口1400万人の北京市には、現在約280万台の車があり、平均して大体100人に20台という所有率である。北京市民の20%以上が、移動に車を使っており、公共交通機関を使う人の数も、大体これと同じくらいだ。そして、40%以上が、自転車か徒歩で移動する。

 北京市が急成長を続けるうちに、市内の旧中心街に住む人たちは、どんどん郊外に追いやられてしまい、自転車や徒歩で職場や市の中心部まで行くことは不可能に近くなるだろう。このような人たちのほとんどが、公共交通機関に頼ることになる。しかし、過去10年間、北京市の交通予算の大部分が、道路や交差点や駐車場の整備に使われてきた。これらは主に乗用車を運転する人たちに恩恵をもたらすものだ。「問題は、通りが広くなればなるほど、車の数も増えることです」と何(ヘ)氏は語る。

 車がたくさん増えれば、必ず交通の流れが悪くなる。一方で、公共交通機関への投資が不十分であるために、サービスの低下や、利用者の減少が発生する。北京市および中国各地の都市では、バスを使うと時間がかかるようようになったことと、近くの停留所まで歩くのが大変になったことから、かつてバスに乗っていた人々が車を使わざるをえなくなった。そうなると、渋滞はさらに悪化するばかりだ。この悪循環を打破するため、各都市は、BRTのような高効率の公共交通機関に投資する必要がある。

 BRTを建設すると、専用車線が必要となるため、必然的に現在車を利用している人たちの利益に反することになる。しかし、BRTがもたらす変化は、数本の道路の建設だけにとどまらない。人々が、移動する権利についての考え方を根本的に変えなければならなくなるのだ。「交通の問題は、まさに政治的な問題です」と何(ヘ)氏は説明する。「さまざまな人々の間で、恩恵の再分配が必要なのです」

 幸いにも中国政府は現在、公共交通機関の価値を認め、長年持ち越してきた優先事項として位置づけるようになった。2005年には、中央政府の6部局が、BRT建設を推進するための共同文書を発表した。北京市の1本目の南中軸路は、最初に提案されて以来、待ったをかけられることなく、政府の強力な支援を得ている。

 中国国民は、多様な交通手段から選択をする際、そこから享受できる自由を比較すべきである。今後は、自分だけの快適な空間とプライバシーが欲しいのか、それともモビリティ(移動性)とスピードの恩恵を受けたいのかを、比べなければならなくなるだろう。「北京のBRTシステムは、すべての人に対する公平さと高率さの両方を大事にしています」と何(ヘ)氏は述べる。「私たちは、まず市内のモビリティを確保して、それから、残りの資源を小さな乗用車にどのように割り当てるかを考えるべきなのです」

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