中国、日本、アメリカなどの科学者が参加した国際的な調査団は、ヨウスコウカワイルカが事実上絶滅したと2006年12月半ばに発表した。ヨウスコウカワイルカは2000万年以上前から長江(揚子江)の中・下流域において、この水域の食物連鎖の最上位の動物として、生息してきたとみられる。しかし、いまや長江流域には中国の人口のほぼ3分の1に相当する4億もの人々が暮らしており、中国科学院の水生生物研究所によれば、人間の諸活動により野生動物の生息環境は破壊されてきている。
調査団は11月から12月にかけて38日を費やして3400kmにわたり、光学と超音波のハイテク装置によりこのイルカを探したが1頭も見つからなかった。2004年のある報告書では、この頭数は1970年代から激減の一途をたどってきた。1980年代半ばには約300頭が生存していたが、97年には個体数はすでに13頭になっていた。
この激減の大きな原因の1つは、ここ数十年にわたり長江へ排出された膨大な量の汚水である。長江水資源管理委員会によればその汚水の推定量は都市排水と産業排水とを合わせて、1980年代の終わり頃の150億トンから、2005年の290億トンヘと激増している。そのほとんどが未処理の生放流であり、処理されているのは15%にすぎないとみられている。そのため流域にある湖沼の半分以上が富栄養化し、500を上回る都市の飲用水が危機的状況にある。
もう1つの大きな原因は不法漁獲と水上交通量の増加である。ただ、大規模ダムの建設こそが元凶とする科学者も複数いる。この数十年、中国政府は治水、そして経済発展を支える電力源としての水力発電という面から、ダムを重要な手段と位置づけてきた。ダムは農業や発電のために貯水や放水が繰り返され、それ以前の季節的な流量の変化は崩され、概して流水量が減る。ヨウスコウカワイルカはその索餌のためには周年的に豊富な流水量を必要としていたのである。
WWF(世界野生生物基金)とWRI(世界資源研究所)の共同で行われた2004年の研究では、長江は世界的にみても最たるダム密集流域とされた。既設の多数のダムに加え、計画中及び建設中の大規模ダムが46基にも及んでいるのである。また、この研究では同流域では増大した人口によって生態系は危機的状況を迎える可能性があり、鳥類やこのカワイルカの生息地は破壊されたとの結論に至っている。現在、この流域は陸生及び淡水魚の多様性はまだ高い水準にあり、淡水魚は322種が、両生類は169種が生息するとみられている。
中国農業部は2001年にヨウスコウカワイルカの保護策を作成しながら、資金不足で実施しなかった。しかし、最近、長江上流域における自然保護区における淡水魚の希少種の調査に取り組むことを発表した。これには長江の水文学的、環境的な調査も含まれている。
さらに、中国環境保護総局(SEPA)はアメリカのNGOであるネイチャー・コンサーバンシーと共同で中国の絶滅危惧種と生態系についての調査に取り組む。第一段階では長江上流域の生物多様性を調査して、それに基づき保護のための勧告と戦略を策定し、それを全国的に実施していくのが第二段階になる。SEPAはこのプロジェクトは自然資源保全と経済の持続的発展における政府の意思決定にも、役立つものと考えている。
中国では一般の人々のもつ、種の多様性保全への関心はまだまだ低い。メディアによれば、「ヨウスコウカワイルカの保護をするための最初の研究所である武漢水生生物研究所への寄付をしたのは2005年の1〜5月の間にわずか5人であった」しかし、メディア、NGO、教育機関は、生物多様性の保全に向けての協働で、大きな可能性をもっている。
中国環境レポート一覧
最新環境レポート一覧
・【地球環境問題の書籍をオンラインで購入(ad)】
|