【前編】中国の干ばつで高まる気候変動の懸念《1》へ
干ばつの原因については専門家の間でも意見が分かれている。2006年に完成して論争を呼んでいる三峡ダム計画のせいだとする声もある。北京在住の学者の王紅旗は重慶と四川がある四川盆地を木製のバケツに例えている。水蒸気を放出する主要な水路がダムの建設地にあるのだ。紅旗によると、このダム計画により「自然の地形が人の手によって変えられ、水蒸気の循環が悪影響を受けた。結果として「バケツ」のなかの温度のバランスが崩れ、異常な暑さと干ばつが起こった」という。
この主張を根拠がないと却下する気象学者は多く、重慶の干ばつは世界的な気候変動が原因で、ダムとは無関係だと考えている。中国気象局の国立気候研究所の董文杰所長は中国の報道機関に対して、2006年夏の重慶と四川での異例の干ばつは、地球温暖化に関連する異常気象発生の増加を示す「多くの補足説明の一つ」に過ぎないと話している。
董は、熱波と干ばつを、西太平洋の亜熱帯性高気圧と関連づけている。この亜熱帯性高気圧は、中国の北と西の地域でかつてない影響を及ぼしており、青海チベット高原からの異常高気圧が四川盆地の西側に及んでいることにも関連性があるという。董によると、これらの二つの要因により、重慶で予測されていた降水量が東と北に流れ、中国の北部と北東部にある北京など地域で降水量が増加した。
一方で、青海チベット高原の降雪量は2005年から2006年にかけての冬に20%減少し、長江源流に流れ込む水の量も減った。降雪量が減少すると雪解けのときに吸収されていたはずの熱も余分に放出され、水が豊富なアジアのモンスーンは重慶地域から離れてしまったと董は説明している。
気候変動と地球温暖化が進んでいることから、董など多くの専門家は、三峡ダム計画が存在しなくても重慶の干ばつは「避けられない」と主張している。中国の三峡公司の上級エンジニアの王亥など、ダムの支持者たちは、三峡ダムや他の地域の水力計画は水蒸気の循環を妨げ、降雨量を減少させるのではなく、干ばつの季節のために貯水することで水の配分に役立っていると述べている。
しかし、長江の上流で次々と行われた数十件の水力発電計画を見ると、少なくとも2つの潜在的な問題が浮上する。華能国際電力と大唐国際発電など、異なるいくつかの電力会社がダムの責任を担っていることから、水不足の年に水の供給について発生すると考えられる利害の衝突を解決することは非常に時間がかかる作業になるかもしれない。さらに、天気予報が不確実なことから、貯水された水をいつ放出し、いつ保管するかについて決定することも困難だろう。実際には、乾期を懸念するあまりにダムでせき止められる水の量を増やしながらも、溢れる水を突然川に流し込むことで、さらに大きな災害が発生する可能性がある。
重慶市は、考えられるリスクの対策として、長江の貯水池と灌漑水路の修復をするための資金を割り当てた。しかし、そのような対策では切迫した破滅的な気候変動を阻止するとは考えられない。専門家の予測によると、最近の干ばつはこの地域での極端な気候現象のほんの始まりに過ぎないという。2006年の気候変動に関する国家評価報告書の編集者である林而?によると、今年の夏の重慶はさらに暑く乾燥した気候になる恐れがある。
地球温暖化がこの地域の異常な干ばつと極端な気象に影響を与えていると、専門家が最終的に同意に達したとしても、気候変動に関する政府間パネルの最新の報告書で確認されたように、気候には「目に見える人間による影響」が及んでいることは明らかである。つまり、人間の活動が、重慶で見られている気候変動に影響を及ぼしていると考えられる温暖化の少なくとも一因となっているのだ。現在の課題はこうした人間の活動を特定し、それを抑制することである。
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