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Eco-Economy-Indicators
世界中で消える氷河
レスター・R・ブラウン
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最近のいくつかの研究によると地球上の氷は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2001年前半に発表した画期的な第三次評価報告書で予測されていたよりも速いスピードで溶けている。この事やその他の事実によって、1990年代の氷溶解に関するデータを考慮していなかったIPCCの研究は、現在予測している9センチメートルから88センチメートルの21世紀中の海面上昇値を、上方修正しなければならなくなるだろう。
コロラド大学の北極高山研究所の科学者2人による調査は、アラスカ西海岸とカナダ北部の大氷河の溶解が加速していることを発見した。以前のデータではこれらの地域の氷河が溶解による海面上昇は年間0.14ミリメートルであることを示していたが、1990年代の新たなデータでは、溶解が以前考えられていたよりも2倍以上早いスピードで進んでいるので、0.32ミリメートルの上昇としている。
コロラド大学の研究は、アラスカにある氷河で覆われた11の山脈全てが縮小しつつあるという米国地質調査所(USGS)の研究結果と一致している。USGSが以前行った研究によると、米国のグレーシャー国立公園の氷河は、1850年には150あったが現在は50しかなく、この速さで解氷すれば30年以内に残りも全てなくなってしまう。
USGSの他の研究チームは、人工衛星によるデータを使って氷河に覆われた地域の面積変化を調べたところ、南米のアンデス、スイスのアルプス、フランスとスペインのピレネーなどの山脈地帯で氷河の溶解が加速していることがわかった。
アンデス山脈全域においてより速いスピードで氷河は縮小している。オハイオ州立大学のロニー・トンプソン教授によると、ペルー・アンデスにあるクエルカヤ氷冠の西側にあるコリ・カリス氷河は、1998年から2000年の年間縮小速度が、1995年から1998年の3倍だった。1995年から1998年の年平均は、1993年から1995年のほぼ2倍である。巨大なクエルカヤ氷冠は2010年から2020年の間に完全に消滅すると同教授は予測している。
南極とグリーンランドに次いで世界第3位の淡水貯蔵量を持つヒマラヤ山脈の雪氷塊も後退している。ヒマラヤ山脈の氷河に関するデータは乏しいが、これまで行われた調査は加速度的に後退していることを示している。例えば、1990年代のデータによると、インド・ヒマラヤにあるドクリアニ・バマク氷河は1998年だけで20メートルも後退しており、これはそれまでの5年間で後退した距離を上回っている。
トンプソン教授は1989年から2000年にわたってキリマンジャロの調査も行い、タンザニアのこの有名な山で33%の氷量が失われたことが分かった。今後15年間で氷は完全になくなる可能性があると彼は予測している。
北極と南極の両方で気候変動の影響が見られる。南極は米国に匹敵する大きさの大陸で覆われており、場所によっては2,500メートルの厚さがある南極の氷床は、世界の淡水の70%以上と氷の90%以上を貯留している。
この巨大な氷床は比較的安定しているが、周辺の海へせり出している棚氷と呼ばれる部分は急速に消滅している。この5年の間に、南極半島の「ラーセンB棚氷」は5,700平方キロメートル以上溶けて崩壊してしまったが、そのうち半分は2002年初頭に起こった。デラウェア州ほどの面積を持つ氷山が分離し、この海域を航行する船舶への脅威となっている。
巨大な大陸で覆われている南極と違って、北極は北極海で覆われており、そこでもまた氷は急速に溶解している。この35年間で氷の厚さは平均3.1メートルから1.8メートルと42%薄くなり、また面積も1978年に比べると6%縮小しており、海氷の総量は半分に減少した。ノルウェーのある研究チームは、遅くとも今世紀半ばまでに北極海では夏期には全く氷がなくなってしまうと予測している。
もし予測通りに氷が溶けるとすれば、昔の探検家の夢であるヨーロッパからアジアへの近道、北西海路が実現するかもしれない。不幸にも彼らにとっての夢は、我々にとっては悪夢となりえる。
仮に北極海に夏の間氷がなくなっても、氷はすでに海中にあるため海水位に変化はないが、この地域の熱平衡を変える可能性がある。日光が氷や雪に当るとその大半は宇宙空間へ戻っていくが、大地や開水面に当るとそのエネルギーの大部分は吸収され気温上昇をまねく。これがコンピュータ・モデリングの専門家たちが「ポジティブ・フィードバック・ループ」と呼ぶもので、ある傾向自体がその活動によって状況を助長するような状態を生み出す状況のことを指す。
リチャード・ケールは『サイエンス』誌で、夏によって「北極海は太陽エネルギーの80%を宇宙空間へと反射して送り出す真っ白な反射器から、入射する日光の80%を吸収する集熱器に変わるかもしれない」と述べている。2000年8月に砕氷船が北極の開氷域を発見し、現在氷溶解のプロセスがその作用自身によってさらに進んでいるかもしれないということがさらに証明された。
北極海における夏の温暖化についての予測が重要な意味を持つのは、世界第2位の巨大な氷床を持つグリーンランドの大部分が北極圏に位置しているからである。2000年の『サイエンス』誌記事では、米国航空宇宙局(NASA)科学者チームが、グリーンランドの巨大な氷床が溶けはじめていると報告している。
同チームは、氷床の南端と東端が1993年以来一年当たり1メートル以上の速さで薄くなっていることから、グリーンランドの氷の溶解は加速度的に進んでいるようだと報告している。グリーンランドの氷が全て解けてしまうと、海水位は7メートル上昇するが、気温上昇のペースが速い場合でも完全に溶けるには何百年を要するだろう。
ここ10年特に顕著な氷の加速度的な溶解は、1980年以降の急速な気温上昇と一致している。IPCCは今世紀中、地球の平均気温が1.4度から5.8度上昇すると予測しているので、氷の融解もさらに勢いを増すだろう。
我々は地球の気候を変えることができるはじめての世代である。だからといって実際に変動しても良いのか、という倫理的問題と取り組む最初の世代でもあるわけだ。
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