オーストラリアでは干ばつで収穫量が6割以上落ち込むという。「フードセキュリティー(食糧安全保障)」の著者、レスター・ブラウンのレポート。
今年の穀物収穫が無事終わり、在庫を調査して将来に備える時期である。今年の収穫量の19億6700万トンは、推計消費量の20億4000万トンを約7300万トン下回っている。この4%近くの不足は記録的な水準である。
過去7年間のうち6年間で、世界の穀物生産量が消費量より少なかったことには、さらに粛然とさせられる。結果的に、世界の穀物の期末在庫量は、過去34年間で最低水準の57日分まで低下した。以前、同レベルの水準まで減少したときには、小麦とコメの価格が2倍になった。
2000年以降の6年間に、世界の穀物消費量は、年間平均で約3100万トン増加した。この増加分のうち、2400万トン弱は食料や飼料として消費されている。アメリカでは、自動車燃料用エタノールの生産に使用される穀物の量が、2001年の200万トンから2006年の1400万トンと、年間平均700万トン近く増加している。
現在、燃料の生産に使われる穀物の量が急増している。以前は政府の補助金に決定づけられていた、作物を原料とする燃料生産への投資も、今では石油価格によって動かされている。エタノールの現在の価格が生産コストの2倍であることから、農作物の自動車燃料への変換は非常に利益が多くなった。つまり、アメリカの場合、燃料エタノール蒸留所への投資は、政府ではなく、市場に左右されている。
2005年後半の石油価格上昇の後、トウモロコシを原料としたエタノール生産の利益が大幅に増え、過去数ヶ月で新しいエタノール蒸留所が次々と建設された。F.O.リヒト社が隔週で発行する世界のエタノールとバイオ燃料の報告書によると、2005年10月25日から2006年10月24日にかけて、アメリカでは、54か所ものエタノール蒸留所の建設が開始された。通常の建設期間が14ヶ月であることから、2007年の終わりまでには、ほぼすべてが生産することになる。これらの工場をあわせると、年間のエタノール生産能力は40億ガロンに達し、年間3900万トンの穀物を消費することになり、そのほぼすべてがトウモロコシである。(データを参照)
着工件数も急速に増えている。2005年11月から2006年6月では、9日間に1つの新工場建設が着工された。2006年7月から9月にかけては、これが5日間に1つ、同年10月には3日間に1つである。
企業が蒸留所を建設する場合、計画の決定、建設地の選定、土地の購入、必要な許可の申請、資金の調達には、通常で何ヶ月もかかる。すると、カトリーナ後の石油価格の高騰の影響が、こうした着工というかたちでようやく目に見え始めたのは、ここ数ヶ月ということになる。
エタノールの原料となる穀物の量を計算するために、2005年にエタノールの生産に使われた4100万トンに、新工場で生産される予定の3900万トンを加えると、トウモロコシでは合計8000万トンになる。これには既存工場の生産拡大で必要となる穀物の需要増加は含まれていない。また、主にヨーロッパや中国など、アメリカ以外で穀物原料のエタノール蒸留所が多数新設されていることも考慮されていない。→ 《後編》【食糧・エネルギー】自動車燃料として注目が高まるアメリカの穀物、脅かされる世界の食料安全保障と政治的安定(2)
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