現在進められているインドの下水道は、実際には病原体を拡散するシステムと言える。下水道に流出した少量の汚染物質が、大量の水を人の使用に不適切なものにしてしまう。多くの場合、その水が近くの河川に放出される。ナライン所長は、「川も子供も死んでしまう」と嘆く。他の多くの発展途上国と同様に、インド政府は、水使用を前提とした下水道及び下水処理施設の普及を目指す世界共通の方向に追随しているわけだが、必要とするサービスと、実際提供できるサービスの大きな差を埋めることができないのが現実だ。しかし、インド政府は、この方法が経済的に持続不可能であるとは認めようとはしない。ナライン所長は、「水は使い捨て」の方法がうまくいくはずがないと結論づける。
病原体の拡散は、公衆衛生にも大きな問題を投げかけている。世界中で、粗悪な公衆衛生施設や個人の不衛生により、1年に270万人の命が奪われているという。飢餓や栄養不足による死亡590万人に次ぐ数である。
幸いにも低価格で可能な他の選択肢がある。コンポストトイレである。この型のトイレは、シンプルで無臭、水も使わず、小型の堆肥化槽につながっている。生ゴミもこの堆肥化槽に入れることができる。脱水・堆肥化により、人間の排泄物を土壌に似た腐植土に変える。基本的には無臭で、元来の重量の10%未満となる。この小型堆肥化槽は、デザインやサイズにもよるが、1年に1回程度、中を空にする必要がある。製造業者は、腐植土を定期的に回収し、土壌改良材として販売することも可能である。その結果、養分と有機物が確実に土に戻り、肥料の必要性も下がることになる。
この技術は、家庭での水の使用量を減らし、水道代を下げ、水の使用・浄化に必要なエネルギーを節約することとなる。さらに、生ゴミもこのシステムに組み込めば、外に出す生ゴミも減り、下水処理問題もなくなり、養分循環を回復させることとなる。米環境保護局は、現在、使用が認可されている脱水型トイレの機種名をリストアップしている。この脱水型トイレの開発をいち早く手がけたのはスウェーデンで、スウェーデンの集合住宅、アメリカの一般住宅、中国の農村など、現在さまざまな状況で使用されているが、いずれもうまく機能しているという。
家庭では、節水型のシャワーヘッドや水洗トイレ、食器洗浄機、洗濯機などの家電を利用することにより、水を節約できる。節水基準やラベル表示を家電に求めている国もある。エネルギー効率向上のためにとられた施策と共通点も多い。水のコストが上昇し、コスト上昇が将来においても不可避と見られる中、コンポストトイレや節水型の家電に投資することが、ますます家計にとって魅力的となるであろう。
(続き)【水資源】「水は使い捨て」の時代は終わった
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