《前編》クリッパー・ウインドパワー社とBP社が連携体制をとっている。すでに開発が進むタイタン・ウインドファームは、州の人口78万人が現在利用する電力量の5倍もの発電量を見込んでいる。このプロジェクトの一環として、今は使用されていない鉄道線路に沿ってアイオワに延びるトランスミッションライン(伝送線路)を整備し、イリノイやアメリカ工業地帯に電力を供給する計画も進められている。
コロラドの億万長者フィリップ・アンシュッツは、ワイオミング中南部に出力200万kWのウインドファームを開発している。彼はすでにカルフォルニアにまで延びる900マイルの高電圧トランスミッションラインを整備する権利を獲得している。この投資により、人口は少ないが風力資源豊かなワイオミング州に数多くの大規模なウインドファームを開発する道が開かれた。もうひとつトランスミッションラインが開発されており、ワイオミング東部の風力エネルギー資源とフォートコリンズ、デンバー、コロラドスプリングスなど成長著しいコロラド州各都市とが南北に結ばれる予定だ。さらに、風力資源豊かなカンサスやオクラホマは、アメリカ南東部に延びるトランスミッションラインを整備し、豊富で安価な風力エネルギーの輸出をめざしている。
カルフォルニアは、現在ロサンゼルス北西部のテハチャピ山脈に出力450万kWのウインドファームの開発を手がけている。アメリカ東部では、風力エネルギー産業に新たに参入したメイン州が、300万kWの発電能力をめざし開発計画を進めている。州の人口130万人の電力需要をはるかに超える出力である。メイン州の南部に位置するデラウエアは、出力60万kWに達するオフショアウインドファーム建設を計画しており、州の人口の約半分の電力需要を満たすことできるものと期待されている。ニューヨーク州は、現在70万kWの風力発電能力を持つが、さらに800万kWを追加する計画で、その大部分をエリー湖、オンタリオ湖に吹き抜ける風を利用して発電する予定だ。そして、オレゴンは、風力資源の豊富なコロンビア川峡谷に出力90万kWのウインドファームを建設し、近い将来、州の風力発電能力を倍増させるという。
風力が、アメリカの新エネルギー経済の中心となるのは間違いなさそうだ。最終的には、数億kWの電力を供給することになるだろう。
太陽エネルギーもまた急速に拡大している。アメリカの豊富な太陽エネルギーの利用には、太陽電池セルを用いる方法と、太陽熱発電プラントを利用する方法があり、太陽光を電気に変換する。『ミリオンソーラールーフ計画』を推進するカルフォルニアは、太陽電池の設置率で断然トップの座を譲らないが、追随するニュージャージー、続いてネバダも太陽電池設置を強力に推し進めている。
現在、アメリカ最大の太陽電池装置は、ネバダ州のネリス空軍基地にある1万4000kWの出力アレイである。しかし太陽光発電による電気は、実用レベルで大きなうねりとなり拡大している。PG&E社は、太陽光発電に関して2件の契約を締結し、合わせて80万kWの発電能力達成をめざす。この投資で実現する太陽光発電プラントでは、合計12平方マイルに及ぶ砂漠地帯に太陽電池が設置され、そのピーク発電量は、大規模な石炭火力発電所一基に匹敵するという。太陽光発電プラントは、暑い季節に特に魅力的な技術といえる。なぜなら、太陽光発電プラントが最も多く発電できる時期と、エアコンのピーク需要の時期とが重なるからだ。
太陽熱発電プラントは、反射鏡を使い、液体を入れたタンクに太陽光を集中させ、その液体を華氏750度にまで熱し蒸気をつくり発電するというもので、突如この技術が大いに脚光を浴びている。アメリカには、世界で唯一の大規模な太陽熱発電プラントが建設されており、35万kWの発電量を誇るプロジェクトとして1991年に完成した。しかし、2008年9月の時点で、アメリカでは10基もの大規模な太陽熱発電プラントが建設中か開発段階にあり、その規模は18万kWから55万kWの出力となる見通しだ。これらのプラントのうち8基がカルフォルニア、1基がアリゾナ、もう1基がフロリダに建設される予定だ。今後3年間で、アメリカは太陽熱による発電能力を現在の42万kWから350万kWに近づけ、8倍もの飛躍的増加が達成される見通しだ。
風力と太陽エネルギーに加えて、地熱発電も加速的勢いで拡大している。2008年の時点で、アメリカは300万kWの地熱発電能力をもち、そのうち250万kWがカルフォルニア州で発電されている。地熱発電にもまた突然変化の波が訪れている。アメリカ西部12の州で約96もの地熱発電プラントが現在開発されており、アメリカの地熱発電能力は倍増すると見込まれているのだ。地熱発電は、カルフォルニア、ネバダ、オレゴン、アイダホ、ユタの各州により主導されており、将来大々的に開発される展望が開かれたと言えよう。
新エネルギー経済においては、再生可能エネルギーによる電力が主要な動力源となるだろう。電気が建築物の照明や冷暖房に利用されるようになる。さらに、プラグイン・ハイブリッド車、都市部でのライトレールトランジットシステム(次世代型路面電車システム)、日本やヨーロッパに見られるような都市間高速電気鉄道システムなどへの移行が進む中、輸送システムもまた、電力が主要な動力源となるにちがいない。
アメリカでは、大きな関心が再生可能エネルギー資源の開発を後押ししている。これほど大きな関心が一つの場所で一時期に集中するというのは、歴史を振り返っても例がないのではないだろうか。第一に言えることは、再生可能エネルギー資源への転換がエネルギー安全保障を高めるということだ。だれも風力、太陽、地熱エネルギーの供給ルートを断ち切ることなどできない。また、再生可能エネルギーへの転換により、過去数十年にわたり石油や天然ガスで問題となってきた価格変動に直面することもなくなるだろう。いったんウインドファームや太陽熱発電プラントが建設されれば、価格は安定する。なぜなら、燃料コストが発生しないからだ。再生可能エネルギー資源への転換は、炭素排出を大幅に削減することにもなり、気候安定に貢献し、その結果、気候変動がもたらす最悪の影響を回避することができるだろう。
この転換はまた、石油購入のためのドル流出に歯止めがかかり、国内に資本をとどめ、新エネルギー経済に投資することを可能にする。そうすれば、国内の再生可能エネルギー資源の開発が進み、国内に新たな雇用が創出される。経済危機や失業率増加に直面する中、これらの新しい産業は、週単位で数千もの新たな雇用を生み出すことになるだろう。風力、太陽、地熱産業が新規雇用を増やすだけではない。建設業界、さらにはスチール、アルミニウム、シリコン製造など資材供給産業での雇用創出にもつながる。また、新エネルギー経済を構築・運用するには、計り知れないほど多くの電気技術者、配管工、屋根職人の力を借りなければならない。同様に数知れない風力気象学者、地熱地質学者、ソーラー・エンジニアなどハイテク専門職も必要となる。
再生可能エネルギー資源への転換の勢いをこのまま持続するためには、一つの鍵となる分野で国がその指導力を大いに発揮しなければならない。それは、強力な国家グリッド(送電系統)を整備することである。民間投資家が長距離トランスミッションライン(伝送線路)に投資しているが、これら民間のトランスミッションラインを国家グリッドに組み入れる必要がある。国家グリッドは入念に計画を施し、かつてアイゼンハワー大統領が推進した州間高速道路システムに相当する州間高速電気システムを整備し、豊富な再生可能エネルギー資源のもつ可能性を最大限に生かさなくてはならない。
そして、最も重要なのは、「今、人々が開発しているのは、地球が存続する限り持続可能なエネルギー資源なのだ」という認識のもと、強い熱意によりこのエネルギー転換を支えていかなければなければならないということである。油井は枯渇し、石炭の蒸気は消えてなくなるだろう。しかし、産業革命以来はじめて、われわれは永遠に尽きることのないエネルギー資源に投資しているのである。新エネルギー経済を構築すれば、われわれの時代の誇るべき財産として、未来の世代に引き継ぐことができるにちがいない。
その他のレポート
・中国-バイオ燃料の生産拡大が中国の生態系を脅かす
・【エネルギー】アメリカの砂漠を太陽熱発電所に!
・【地球環境問題の書籍をオンラインで購入(ad)】
|