アメリカの新聞には、2年近くにわたり不吉な見出しが躍っている。不可解な病気、蜂群崩壊症候群(CCD)を伝える記事だ。CCDが原因で多くの作物の受粉を助けるミツバチが壊滅状態にある。ミツバチが消えれば、田畑は不毛の地となり、経済が崩壊し、食料不足に陥るだろうと記事は続いている。
アメリカでは、アーモンドからズッキーニに至るまで100以上の農作物の商業的生産がミツバチの媒介に依存していると言われている。多くの生産者は、商業養蜂家から、ミツバチを借りる。養蜂家は、ミツバチの巣箱を場所から場所に移動させ、さまざまな農作物を受粉させるのである。花粉媒介産業の最大規模の例として、カリフォルニアのアーモンド畑があげられる。毎年2月中旬から3月中旬にかけて600億匹近いミツバチを集め、22万3000ヘクタールに広がるアーモンドの花を受粉させる。
たったひとつの外来種のハチで成り立っている花粉媒介産業が、どのようにして、かつては多様な野生種のハチが提供していた無料の花粉媒介サービスに取って代わってしまったのか、正確にはわかっていない。しかし、生態学者の間では、花粉媒介産業と農業集約化に密接な関連があるということでほぼ意見が一致している。アメリカで花粉媒介産業が生まれたのは、20世紀中ごろ、農場主が大量の有機リン酸エステル系農薬の使用を始め、大規模な単一栽培農業を導入し、農場の周囲や道路わきから野生植物を一掃する「除草農法」を採用した時期である。
蜂群崩壊症候群(CCD)は不思議な現象である。最初に報告されたのが2006年秋で、数人の養蜂家が、ミツバチが巣箱からすっかり消えているのを発見した。死んだハチより逃げたハチの方が多かった。通常は必死に巣箱を守るハチが(だからこそハチは刺すのだが)、女王バチや生まれて間もないハチを置き去りにして逃げてしまったのだ。
科学者が確認しているのは、CCDが劇的かつ広範な問題であるということだ。CCDが発生した最初の冬にあたる、2006年から2007年にかけて、CCDの被害を受けたアメリカの養蜂家は、全養蜂家の1/4に及んだ。巣箱のミツバチの30〜90%が忽然と消えたのだ。翌年は冬の気候が温暖であったため、弱体化したハチ群には救いであったが、それでも全米のハチの消失数は、その前年よりも若干増加した。CCDは、全米36の州で報告されている。カナダ、一部のヨーロッパ諸国、インド、台湾、ブラジルのハチもその影響が疑われている。
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