国連によれば、世界のおよそ11億人は、安全な水を確実に入手できずにいる。安全な水のこうした不足状況は、コレラや赤痢などの水が媒介する(本来は予防可能な)病気の発症率の上昇に直接結びつき、毎年220万人が命を奪われている。
生存にとっての重要性から、「水はすべての人のものであり、アクセスは基本的な人権だ」という考え方を世界中の文化が共有している。しかし近年では、さまざまな分野で民営化を進める世界的な傾向に沿って、ヨーロッパの多国籍企業をはじめとする民間企業が、各国の地方自治体の給水システムを管理し始めた。
水の民営化が初めて多くの人々の知られるようになったのは、ボリビアのコチャバンバの住民が水道料金の急騰に対する抗議行動を行った2000年のことである。その前年、ボリビア政府は、世界銀行に強く促され、アメリカのエンジニアリング大手ベクテル社とイタリアのエネルギー会社エジソン社が共同で所有する合弁会社に対し、40年に及ぶ水道事業の民営化契約を承認した。水道料金はその直後から三倍にも上昇し、多くの家庭では収入の1/5を水道代に支払うようになった。暴動によって政権は不安定となり、契約は破棄された。
貧しい社会で操業しながら利益を上げようという取り組みのなかで、前払式の水道メーターを設置する企業もある。住民は、水を入手するために引換券を購入しなければならない。購入した分が無くなれば、自動的に水栓が止まる。
先進国では前払式の水道メーターこそまだ見かけないが、アクセスを管理する無情なやり方が免除されているわけではない。アメリカの一部では、企業が後押しした新しい法律によって、水道事業の管理者は、料金の滞納を理由に水を止めることができる。ペンシルバニアでは、2005年に、料金を払えなかった数千人を対象に給水を止めている。
途上国では、数十億の人々が1日3ドル足らずの稼ぎで、水を買う余裕もない。水の価格が上がれば、こうした人々は、汚染されていることの多い無料の水源を再び使い始める。タンザニアやマリ、南アフリカ共和国、ガーナといった国々の貧しい地区では、水道代の値上げで、コレラのような病気が増加している。また、貧しい地域では水道関連のインフラが故意に壊される事態をまねく。人々が水道管に穴を開け、水をただで抜き取ろうとするからだ。
ボトル入りの水を販売する業界の成長は著しく、飲料業界のデータを提供するビバレッジ・マーケティング社によれば、2006年には、前年の1630億リットルから増加して、全世界で1780億リットルを売り上げた。 広告代理店のゼニス−オプティメディアによれば、この業界は、2006年には、アメリカのボトル水の広告に1億6280万ドルを投じたという。
レスター・ブラウンが所長を務めるアース・ポリシー研究所によれば、アメリカ、オーストラリア、デンマーク、カナダ、イタリア、フランス、イギリスの市、州、あるいは国家政府は、ボトル水の利用を制限し水道水を奨励する法案を可決した。多数のレストランや学校、宗教団体が同様の政策を採用している。
エリカ・ギーズ(Erica Gies)
*サンフランシスコを中心に活動するフリーランスの環境レポーター
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