｜トップ｜プライバシー｜リーガル｜サイトマップ｜　

　 海洋熱エネルギー変換（ocean thermal energy conversion； OTEC、海洋温度差発電ともよばれる）をするためには、ある意味では、もっとも単純な装置しか必要ない。水を流し、温水流と冷水流の熱交換をするためのプラスチックや金属の配管設備と、発電のためのタービンである。
　 OTECのエネルギー源をたどれば、それは太陽光である。大洋の海面は莫大な量の太陽光を吸収して熱の形でそのエネルギーを蓄える。ハリケーンやサイクロン、台風は、この積もり積もった熱が、風と雨の激しい渦となって流れ出してくる現象である。このエネルギーを有益な目的のために利用するOTECシステムに必要なのは単に熱だけではなく、その熱を制御しながら移動させる手段である。この点に海洋熱エネルギー変換のもつ大きな難しさの一つがある。というのも、このシステムには大量の冷水も必要となるからである。

熱機関とよばれる装置（基本的には、逆向きの作用をする冷蔵庫）へ、冷水と温水が別々にパイプで送られると、この装置は発電をする。これに最適な方法は、いわゆる閉鎖サイクルとよばれるものである。閉鎖サイクルでは、温かな海表面水の流れを、ある種の冷媒（アンモニアのような、室温に近い温度で沸騰する液体）を中に入れたパイプ機構の間に通す。熱帯の浅海水は、冷媒を沸騰させるに足る温かさがあり、蒸気を噴出させる。この蒸気はタービンを回して電気を生み出す。蒸発した冷媒はその後、冷たい深海水の流れによって冷やされ、液体にもどる。このように冷媒を再生させるので、冷媒は装置の中を繰り返し循環できる。
　世界経済の発展が続き、しかも、世界が二酸化炭素の排出量の多い燃料から、無公害エネルギーに転換するならば、数100億kWを超える平均出力が可能な無公害な発電容量が必要になる。理論的には、OTECは今日の電力需要のすべてを満たすことができる。
　 研究者たちは、飲料水に加え、深海からの冷水に対して、副産物として他にも多くの応用法を考えだしている。これには、建築物の冷房から、魚の養殖、作物の栽培などがある。これらの応用法それぞれのカギとなるのは、常態では入手困難なものを、深海水がもたらしてくれるということである。 　 　深海水は栄養分、とくにリン酸塩と硝酸塩に富んでおり、また、海面近くで魚類に被害をもたらす、汚染や病原体がない。土壌中に深海水のパイプをめぐらせれば、農業の一助にもなるのではないかと期待する人々もいる。つまり、土壌を冷やすことで、熱帯でも温帯の作物を栽培できるようになり、また、この冷却によって、空気中の水蒸気を畑の上で水に凝縮させ、作物ヘの潅水効果が見込めるからである。この、食料と水とエネルギーという組み合わせは、熱帯の離島でのOTECシステムの展開を支える一助となる。

　メーソン・インマン（Mason Inman）
＊カラチを拠点にするフリーの科学ジャーナリスト

・【地球環境問題の書籍をオンラインで購入(ad)】

※ワールドウォッチマガジンは米ワールドウォッチ研究所が隔月で発行している。詳細

関連レポート
・中国-中国の干ばつで高まる気候変動の懸念
・【地球温暖化】気候変動で登山がさらに危険に