前編:【中国】中国、水不足で食料生産に打撃《1》
中国は黄河上流の経済開発促進に向けて、上流地域の新興企業に優先的に給水している。結果として、上流でより多くの水が使われるため、下流の農業地帯に届く水は減っている。極端に降雨量の少ない年には、黄河の水が最下流部の山東省までも達しない。
もともと山東省の農家は灌漑用水の約半分を黄河から、残りの半分を井戸から取水していたが、川の水も地下水も減少しつつある。トウモロコシの五分の一、小麦の七分の一という国内生産シェアを占める同省での灌漑用水不足が、中国の穀物の減産の一因となっている。
中国の例は明らかな政府収用であるにせよ、世界的に見ても、都市が農家の水利権に高額を提示したり、農家には掘れないような深井戸を掘削したりするため、水争奪戦における農家の旗色は悪くなっている。農民は、多くの場合、水供給量の低下だけでなく、その先細りになる供給量のシェアも少なくなるという現状に直面している。穀物を必要とする世界人口が毎年7000万人ずつ増える一方で、都市はゆっくりだが確実に農業用水を吸い上げている。
穀物の輸入需要が明日どこに集中するのかを知りたければ、今日どこで水不足が起きているかに注目すればよい。現在までのところ、穀物の大部分を輸入しているのは小国であるが、それぞれ人口が10億を上回る中国とインドで水不足が急速に進んでいるのは、世界の穀物市場を揺るがす前兆かもしれない。
水の需要量と持続可能な供給量の格差は年々広がり、地下水位の低下幅も毎年大きくなっている。多くの水不足に悩む国では、地下水の枯渇と都市用水への転用で灌漑用水の不足がさらに深刻になり、その結果として穀物不足も深刻化する。
世界の穀物生産が1950年から2000年にかけてほぼ三倍に増えた過程において、灌漑用水は一助となった。したがって、その水が失われれば、穀物生産量が縮小するのは当然である。灌漑用水については、多くの国が典型的な「自然の限界を越えて崩壊する」状況に陥っている。地下水を過大に汲み上げている国が、水の使用量を減らし、地下水位を安定化させるために、速やかに行動しなければ、最終的に食料生産が落ち込むことは避けられない。
(レスター・ブラウン、『プランB2.0』より一部抜粋)
-全編了-
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