(前編)
「地球白書2007」では、持続可能な未来づくりを率先して行っている都市の例を挙げている。その一部をご紹介しよう。
●カラチ(パキスタン)
パキスタンのカラチ市で活動するオーランギー・パイロット・プロジェクトは、インフォーマル居住区内にある数十万の低所得世帯に対し下水道整備を進めている。地元住民が自ら各家庭と下水道をつなぐパイプ設置作業を行い、費用負担は自治体の水道局や衛生局が請け負った場合請求されるであろう金額のわずか20%で設置できるという。
●フリータウン(シエラレオネ)
レオナルド・ディカプリオが主演し、話題となったブラッド・ダイアモンドの舞台となった、シエラレオネのフリータウン市では、数年間の内戦が停止した後、多くの人々が都市農業を実現し、食糧のほとんどを自給自足している。
●日照市(中国)
中国の日照市では、市の計画により中心地区に住む家庭の99%が太陽熱温水器を設置し、信号や街灯、公園の照明の大半は太陽電池で照らされ、市の二酸化炭素排出や都市公害の削減に寄与している。
●ボゴタ(コロンビア)
コロンビアのボゴタ市では、象徴的な取組みとされたブラジルのクリティバ市のバス高速輸送システムをさらに改善し、トランスミレニオという交通システムを整備し、大気汚染の改善、生活水準の向上に寄与している。また、ボゴタ市を模範として、ヨーロッパ、北アメリカ、アジアでも同じようなプロジェクトが始まった。
世界中の都市が真剣に気候変動問題に取り組んでいる。その多くが直面している直接的な脅威に対応するためだ。2015年までに人口最低800万を持つであろう33都市のうち、東京や大阪、神戸など少なくとも21都市が沿岸地域にあり、気候変動による海水面上昇への対応が迫られている。
アメリカでは、合わせて5,100万人を超える人々が暮す300以上の都市が、全米市長気候保全協定に加盟し、各都市の排出量を削減し、連邦政府が積極的に国として環境政策をとるよう働きかけている。例えばシカゴ市は、2010年までに市が必要とする電気の20%を再生エネルギーから供給するよう民間の電力会社と交渉している。目標は、「アメリカで最も環境にやさしい都市」になることだ。負けじとばかりニューヨークのマイケル・ブルームバーグ市長は、ニューヨーク市こそ温室効果ガス削減のアメリカのリーダーになるのだ、として最近さまざまな計画を発表した。
「最善の方法」があっても、それひとつで全ての都市がうまく貧困、環境問題に対処できるというわけではないが、「地球白書2007」が着目しているのは、都市のリーダーシップが地球や人間の発展のために計り知れない恩恵をもたらすことが可能な分野だ。例えば、貧しい都市住民への水や衛生面のサービス充実、都市農業の活性化、公共交通機関の改善などである。さらに、「地球白書2007」は、より資源を投資して都市問題に関する情報収集を行わなくてはならないと提唱する。そこで、都市や国、国際的な組織がより的確に開発の優先事項を判断することをできるからだ。
ブラジル、パラナ州の元知事でクリチバ市の元市長でもあるジャイム・ラーナー氏は、「地球白書」の前書きで、次のように述べている。「都市は全ての人々の夢だ。この夢を実現することは極めて重要だ。都市問題を進展させることがより平和でバランスのとれた地球実現の鍵だ。そうすれば、我々は都市化が進むこの世界を脅威ではなく希望をもって見ることができるのだ。」(了)
最新版の『地球白書』(State of the World 2007: Our Urban Future)は「都市」をキーワードにしている。
※『地球白書』(State of the World)
米国ワールドウォッチ研究所(WorldWatch Institute)が1984年より年次刊行している。
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