有機農業にながらく取り組んできた農業生産者であるジーン・カーンは、「有機農業は世界を養えるか」は、まさしくまやかしの質問だと言う。カーンは有機食品のカスカディアン・ファームを創設し、いまはゼネラル・ミルズ社の持続可能な開発を担当する副社長を務めている。「私たちは世界を養えるか―これが本当の問いである。もっといえば―私たちは飢えと飽食という不公平を正せるだろうか」。カーンは、余剰食糧を分配し直せば、現在の有機農業の収量と従来農法の収量とのわずかな差は問題ではないと記している。
しかし、有機農業は数え切れないほどの恩恵をもたらすだろう。一例として、複数の調査で明らかなように、土壌侵食、飲料水の化学物質汚染、野鳥などの野生生物の死といった外部に及ぼす影響は、従来の農法に比べわずか1/3である。各大陸での調査によれば、有機農場で生息する鳥や野生植物や昆虫といった野生生物種の数は、従来の農場をはるかに上回っている。またいくつかの政府が行ったテストでは、有機食品の残留農薬量は非有機食品に比べわずかであり、さらに従来の多くの食品に認められている成長ホルモンや抗生物質、多くの添加物は完全に禁止されている。さらに、有機栽培された作物は、健康を促進する抗酸化物質量が著しく高いというデータもある。
社会にも恩恵がある。有機農業は高価な肥料などに頼らないため、飢餓に苦しむ国々の小規模農民に分があるかもしれない。国連食糧農業機関(FAO)の2002年の報告書には、「発展途上国での有機システムは、従来の生産性を2倍から3倍拡大できる」と記されているが、同時に、収量の比較は「限られた狭小な、そしてときに誤った図式」を示す点にも触れている。なぜなら、途上国の農民は、水や金を節約し、過酷な状況下で収量の変動を抑えるために有機農法を取り入れる場合が多いからである。農業開発国際基金が行ったより新しい調査によれば、より多くの労働力を必要とするという事実は、「有機農業が、雇用が十分でない地域での資源の再配分に、とくに有効に機能することの証明になる場合が多い。これが農村部に安定をもたらす一助となる」。
このような恩恵は、理想的な有機農業の環境に完全に移行しなくても手に入るだろう。実際、ある種の妥協が、より希望の持てる合理的な方法だと考える専門家もいる。そして、有機農業のやり方に誠実に従わないまでも、その原則を取り入れる農民は増えている。後編はこちら
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