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このシナリオでは、「貧しい農民」と「環境」が最終的に優位に立つ。アフリカとアメリカ大陸で数十年間農業の拡大に努めてきたローランド・バンチは、現在、ホンジュラスにある“持続可能で生態学的かつ人間中心の農業のためのコンサルタント協会”に在籍しており、貧しい農民の間では有機農業のほうが生産量が勝ることを身をもって知っている。しかし同時に、有機農産物に対して支払われた「健康のために少し高い価格」がこれらの農民の手には渡らず、彼らがしばしば完璧な有機農業への移行に伴うコストやリスクを負担できなかったり、負担したがらないことも知っている。
バンチは、それよりも生態系に優しい農業や、依存する化学物質を少量に抑え、有機農法の原則を多用する低投入型農業という「中庸路線」を提示する。「これらのシステムは、小規模農家の現在の生産量をすぐにでも二倍、あるいは三倍に増加させる。さらに、生産物一単位あたりのコストが少ないので、小規模農家にとって魅力的である」とバンチは言う。しかも、すぐに食糧生産が増えるだけでなく、この中庸路線が環境にもたらす恩恵は、「完璧な有機」の実践よりはるかに大きいとバンチは述べる。なぜなら、「教育や訓練の費用一単位当たりで見ると、5倍から10倍程度の小規模農民が、経済的な有利さからこの方法を採用するだろう。彼らは、子どもを飢えさせるわけにはいかない。そして、仮に5人の農民が化学物質の使用量を半減させれば、環境への影響は、一人の農民が完全に有機農業に移行した場合の2.5倍になる。」
また、土作りや生物多様性の増加、家畜を輪作への取り込んだ複合経営に着目する農民は、この先、遺伝子組み替え作物や合成窒素、収量を増加させる新技術などに時おり頼ることもできる。土壌の劣化が著しい場所では、とくに当てはまるだろう。農業コンサルタントのドン・ロターは、「要するに、正しく行えば、従来の農業にも有機農業のシステムをかなり取り入れられる」と言う。ロターもバンチ同様、そのような「統合された」取り組みは、収量、経済性、環境への恩恵といった点で、「完璧な有機農法」と「化学物質を大量に使う農法」の双方に勝ることが多いと記す。
しかしロターは、この地点に到達できるかどうか、確信を持てずにいる。世界の農業は、ほとんど有機の方向を向いていないからだ。これこそ、世界の貧しく飢えている人々にとっての真の問題である。国際食糧政策研究所の調査を率いるオランダ人科学者ニールズ・ハルバーグは、「サブサハラや南アメリカには、緑の革命の影響が及ばず、貧しい農民の次世代になっても及ばないであろう広大な地域が残されている。これらの地域への農業生態学的対策は、収量とフードセキュリティーの面で好ましい効果があると思われる。真剣に取り組んでみてはどうだろう」と語る。
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