2008年夏季オリンピックを控えた開催地北京は、美しい都市のイメージづくりを躍起になって進めている。2008年8月8日の開催が間近に迫る中、北京の主要道路沿いの建物の外装作業が急ピッチで進み、陰気で古びた外観は明るい色に塗り替えられている。また、平らな屋根は、見栄えよく改装され、美しい絵の施された古風な壁を新たに建築し、その中に雑然した安っぽい平屋建ての家並みを隠してしまった。
これらの外装作業には多額の費用が必要となる。しかし、北京が表面的なイメージづくりに資金を割り当てる中で、廃棄物問題、下水問題、大気汚染といったより根本的な問題に対応するために必要な資金が不足するのではないかという疑問が出てくる。これらの慢性的な環境問題は長年見過ごされてきたが、来年開催されるオリンピックという国際的イベントを控え、大きな懸念材料となっている。特に、北京の大気汚染は最も関心を集める問題だ。
北京の大気汚染問題のひとつの解決法は、都市輸送システムを改善することである。しかしこれは、推奨するのは簡単でも実行困難な取り組みといえる。北京大学物理学院のLi Zhengxiao准教授は、1990年代から学生とともに新しい燃料添加剤の開発に取り組んでいる。Li准教授は、この添加剤により排出量を削減し、車のエンジン力を増強できると考えているのだ。この添加剤は水滴をより石油に密着させることにより燃焼力を上げ、燃料がより効率的に燃えるようにと開発された。Li准教授は、新会社を設立し、研究結果を実用化すべく長い道のりの一歩を踏み出した。
同大学の学生研究チームのリーダー Gong Yan氏は、物理学の博士号を取得して北京大学を卒業し、添加剤技術の特許をとり、Li准教授同様に新会社を設立した。しかし、Gong氏、Li准教授どちらの会社も自社製品の市場拡大に苦労している。特に難しいのがガソリン市場への参入だ。中国には多くの添加剤製造企業があるが、その大半が中国の(国有)大手石油会社の傘下にあるか、もしくは何らかの関連のある企業なのだ。Li氏やGong氏のようないわゆる部外者の製品は、たとえ品質が高くてもわずかな売上シェアを獲得するのが精一杯なのだ。
1990年代以来、北京は、無鉛ガソリン、天然ガス、液化石油ガスなどのより環境にやさしい燃料を市内のバスに導入してきた。北京市のバスの大半が2段燃焼方式で2系統燃料の使用が可能である。しかし、一般家庭や産業界の天然ガスへの需要が高まる中、供給がとても追いつかない状況で、環境にやさしい天然ガスのバスへの利用は長期間中断されている。そして北京を走るタクシーや小型車は依然として燃費の悪いガソリン車である。さらに現在北京では320万台の車が走っており、毎日千台以上のペースでその数が増えているのだという。
交通公害を規制するひとつの方法は、汚染物質の排出が少ない若しくは全く排出しない車を生産することだ。国際的な取り組みにほぼ足並みをそろえる形で、中国は10年以上前から電気自動車の研究に乗り出している。北京の清華大学は、大規模な燃料電池自動車研究を立ち上げ、その研究結果を実用化するため清華能源公司という会社を設立した。しかし、今のところ、研究施設の外を出て一般道を走行するこの会社の車は一台もない。(後編へ続く)
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