前編:【水資源】水の価格が世界各地で上昇《1》
標高2239メートルのメキシコ・シティは、水供給の一部を1000メートル以上の標高差まで汲み上げなくてはならない。運営コストだけでも、年間1億2850万ドルに達する。この揚水に必要なエネルギー量は、近郊のプエブラ市(人口830万人)で消費される総エネルギー量よりも多い。ヨルダンのアンマンは、標高の高い地域への水の輸送で似た問題を抱えている。
大半の地域では、水は市場で購入または取引されていない。しかし、アメリカ西部、オーストラリア、チリでは、正式な水市場が形成されている。実際に水市場が存在するところは、水の希少価値がいかに高くなりえるか(つまり、他の潜在的利用者が喜んで支払う金額)の例を示す。2006年12月、オーストラリア市場での水の価格は、長引く干ばつが一つの原因となり、年間で20倍まで増加し、1立方メートル当たり最高値の75セント弱に達した。この価格には、水そのものの費用が反映されているだけで、処理や輸送にかかる費用は含まれていない。アメリカ西部には、水不足が深刻なため、菜園の灌漑用として1立方メートル当たり1ドルで家庭排水を販売している都市もある。
インドでは、水不足のために、農作業をするよりも水を売ることで儲けようとする農家も出てきた。以前は作物の灌漑用水として使っていた水を、井戸から汲み上げて近郊の都市へトラックで輸送する。農家は、食料ではなく、水を収穫していて、同時に地下水位を急速に低下させている。
人々が水のために支払う金額の最終的な決め手になる要因は、補助金の量である。水の補助金は極めて大きいことがある。たとえば、デリー市の水による収益は、年間の水供給に伴う費用の20%に満たない。世界で平均40%近くの自治体の水供給事業が、基本的な運営と保全の費用をまかなえるほど、水の料金を徴収していない。
補助金の恩恵を受けるのは高所得世帯だけの場合が多い。よくあることだが、途上国の都市部のスラム住人は、自治体の水供給へのアクセスがなく、水をトラックで運んでくる民間の供給業者から水を買う。この販売の主導権を握るのは悪徳業者であることが多いこともあり、価格は非常に高く、通常は1立方メートル当たり1ドルを超える。たとえば、アジアの都市では、民間業者から水を購入せざるをえない世帯は、自治体の給水システムに接続されている中所得世帯より10倍以上高い金額を支払っている。ウガンダの最貧困層の家庭では、水の費用が所得の22%を占め、エルサルバドルやジャマイカの人々は、水のニーズを満たすために、所得の10%以上を使っている。
後編:【水資源】水の価格が世界各地で上昇《3》
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