前編:【資源】トウモロコシが燃料に。バイオ燃料の可能性《1》
石油が不足した世界では、農業が輸送燃料を生産するようになると、経済と環境にどのような影響を及ぼすのだろうか。
自動車燃料の市場は膨大で実質的な限界がないので、農業が世界経済で果たす役割が重要になるのは明らかだ。サトウキビやアブラヤシを生産できる熱帯や亜熱帯地方では、年間を通して栽培できる条件を最大限に利用できるので、世界市場では極めて有利な立場になる。
バイオ燃料の生産が普及すると、世界の石油価格が農産物の事実上の最低支持価格になる。食料やバイオ燃料の原料になる農作物の価格が低く、石油価格が高い場合、その農産物は燃料生産者の手に渡る。ある日ヨーロッパの市場で取引されていた植物油が、最終的にたどり着くのは、スーパーマーケットかもしれないし、ガソリンスタンドかもしれないのだ。
サトウキビの生産拡大ではブラジルのサバンナに似た土地〔セラードとよばれる灌木草原地域〕とアマゾン流域で、アブラヤシのプランテーションの拡大ではインドネシアやマレーシアといった国々で、開墾、つまりは伐採を促すことになり、動植物の多様性にとって新しい大きな脅威になる恐れがある。政府の規制がなければ、上昇する石油価格は、直ちに生物多様性の最大の脅威となり、現在進んでいる絶滅の波が六度目の大量絶滅になることは間違いない。
現在、燃料作物の増産への多額の投資をまねくほど、石油価格が高くなっていることから、すでに65億人の食料をまかなうために四苦八苦している世界の農業経済は、さらに大きな需要に直面することになる。この途方もなく複雑な新しい状況に、世界がどう対処していくかが明らかになれば、エネルギー不足の二一世紀のおおよその見通しが立つだろう。
食料部門への影響は二通り考えられる。石油価格の上昇にともない、生産コストが上がるため、食料全体の価格も上がる。そうしたなか、割高感のある畜産物離れが始まる。フードマイルズの大きい輸入農産物なども当然に割高になり、地産地消が見直され、保存コストのない旬産旬消も、広く選択され、食生活も一変するだろう。
同時に石油価格の上昇によって、農業資源が、エタノールやバイオディーゼルの原料となる燃料作物の生産に使われるようにもなる。これほど石油価格が上昇すると、自動車を運転する裕福な人々が低所得の食料消費者と、食料資源をめぐって争うことになり、世界は新しい複雑な道徳問題に直面することになる。
(レスター・ブラウン著『フード・セキュリティー』より)
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